ICTの「C」がすごい
オンライン診療に使われている最新技術とはInformation Communication Technology(情報通信技術、インフォメーション・アンド・コミュニケーション・テクノロジー)の事で、頭文字を取ってICTと呼ばれています。
IT(情報技術、インフォメーション・テクノロジー)はよく聞く単語だと思います。インターネットやパソコンやスマホはITです。
それにC(コミュニケーション)を足したものがICTなのです。
オンライン診療は、患者の情報や病気情報を医師が入手できれば完了するわけではありません。
オンライン診療も医療である以上、医師と患者がしっかりコミュニケーションできなければなりません。だからCを含むICTが必要だったのです。
東京慈恵会医科大の先端医療情報技術研究講座の高尾洋之准教授は、ICTを用いたオンライン診療には、次のようなメリットがあると指摘しています。
- ・医療の質向上
- ・患者満足度の高いサービス
- ・医療者の負担軽減
高尾准教授たちは、専門医がたくさんいる都会の診療所と、東日本大震災の被災地である宮城県石巻市の診療所との間でオンライン診療を実施しています。
またシンガポールでも、カメラ付きロボットや通信機器を使って患者の運動の様子をモニタリングする仕組みをつくりました。
オンライン診療に注目しているのは大学だけではありません。
地域に根付いた臨床医たちもオンライン診療を医療現場に活かそうとしています。
例えば、在宅医療のクリニックを東京と石巻市で計5カ所運営している医療法人社団鉄祐会の武藤真祐理事長は、「医療機器と通信機器が向上したことにより、オンライン診療でも一般的な外来診療と同等の医療を提供できている」と胸を張ります。
患者と医師が直接会う対面診療の場合、1時間待って3分診療ということも珍しくありませんが、オンライン診療であれば医師と患者の都合のよい時間に診療が行えるので、より深く患者を診ることができるからです。
医師のいない場所だけでなく、
医師がいるところでもオンライン診療は活躍
厚生労働省は当初、オンライン診療の導入に積極的ではなく、へき地や離島に限って使えるようにしたいと考えていました。
医師がたくさんいるところではこれまでの直接の対面診療を原則として、医療過疎地にだけ例外的にオンライン診療を普及させようとしていたのです。
例えば先ほど紹介した高尾准教授も、過疎に悩む徳島県を例に出し、「県南部には常勤の脳神経外科医いないため、オンライン診療で都会の脳神経外科医が県民を診断できるようになるとよい」と提案しています。
このように医師不足をオンライン診療で補う考え方は理解しやすいのですが、オンライン診療は医師がいる場所でも役に立ちます。
例えば開業医は自分の専門領域については詳しいのですが、他の領域になると診断や治療に困ることがあるそうです。
したがって開業医がオンライン診療と同じシステムを使って専門医に相談することができれば、患者の利益も大きくなるでしょう。
これをオンライン診療とは区別して、遠隔医療、またはオンライン医療などと呼び分けることがあります。
また、中規模以下の病院だと、夜から朝方にかけて病院に泊まり込む当直医は1人になることがあります。
救急車で運ばれてくる患者の病気が自分の専門外であっても、当直医はその患者を診なければなりません。
オンライン医療が拡大すれば、その当直医が別の病院の当直医に相談することも簡単にできるようになるかもしれません。
オンライン診療は、空いた時間に診てもらう事ができて退院後でも安心
東京女子医科大学は、ビジネスパーソン向けのオンライン診療に取り組んでいます。
ビジネスパーソンが仕事の休憩時間にスマホアプリを立ち上げて、画面に現れた担当医から血圧数値に関する所見や、むくみの状態についてのアドバイスを受けます。
受診の支払いはクレジットカードで済ませ、薬は後日宅配便で届きます。
このシステムの最大のメリットは、通院時間も待ち時間も要らないことです。
これなら生活習慣病を抱えていながら、日々の忙しさから受診できない働き盛りの人も「医師にかかろう」という気持ちになるでしょう。
ある病院では、退院した患者にタブレット端末を持たせて、いつでも医師に相談できるようにしました。
病院の高度な治療は必要ないものの、自宅での一人暮らしに不安が残る高齢者に喜ばれるサービスでしょう。
IT機器に不慣れなお年寄りがきちんと操作できないときは、病院側がタブレットの使い方を指導します。
オンライン診療は、特定の診療科目でも大いに役立ちそう
都心部の若い人達にも、オンライン診療は歓迎されるでしょう。
人に知られたくない病気や、どうしても恥ずかしいと感じてしまう症状に悩んでいる人でも、オンライン診療を使えば通院しなくていいので、受診する気持ちがわいてくるかもしれません。
例えばED(勃起不全)やAGA(男性型脱毛症)は治療しなくても生死に関わるリスクが低い病気なので、多くの患者は苦しくても放置して我慢してしまいます。
また、便秘や痔なども、病院にかかりたくないと思わせてしまう病気です。
しかし、EDやAGA、便秘や痔なども早期治療によって症状の改善が期待できます。
したがってこれらの病気こそ、早く医者に診てもらったほうがいいのです。
オンライン診療なら医療への抵抗感を少なくすることができるので、早期受診・早期治療を実現できるかもしれません。
※遠隔診療とED・AGA治療との相性については、こちらの記事に詳しく書いてあります。