記事リリース日:2018年6月4日 / 最終更新日:2019年1月21日
オンライン診療(遠隔診療)には
「死角」はないのか
~反対する医師たちの主張とは
「そこまで来ている未来の医療」として注目されているオンライン診療(遠隔診療)ですが、実は医師の中にもオンライン診療(遠隔診療)の本格導入に懸念を示す人がいます。
IT(情報技術)による業務の効率化はどの産業でも進められているので、仮に一部の医師が反対していたとしても、IT医療のトップランナーであるオンライン診療(遠隔診療)の勢いを押しとどめることは難しいでしょう。
しかし、オンライン診療(遠隔診療)を本当に有用な医療として発展させるためには、反対意見にしっかりと向き合うことは重要です。
医療界の権威が強く反発
社団法人日本医師会は16万7千人の医師たちで構成する国内最大級の医療系団体です。政府や厚生労働省に対しても大きな発言力を持っています。
そのナンバー2である日本医師会副会長の中川俊男医師が2017年3月に、オンライン診療(遠隔診療)が拡大する兆候をけん制する発言を行い話題になりました。
オンライン診療(遠隔診療)については政府が推進する立場を取っているので、多くのマスコミが中川副会長の発言を紹介したほどです。
中川副会長の発言の趣旨を要約すると、次のようになります。
- ・オンライン診療(遠隔診療)に必要なICT(ITによるコミュニケーション)は、対面診療の補完にすぎない
- ・ICTの活用が患者にとって有用かつ安全である証拠を示す必要がある(いまはまだその証拠がない)
- ・遠隔画像診断でICTを活用する場合、厳格な運用ルールが必要になる
- ・医療費削減のためにICTを活用しようとするなら、医療の否定につながる
ICTの技術は本当に確かなのか
ひとつひとつ丁寧に読み解いてみましょう。
まず中川副会長は「オンライン診療(遠隔診療)を認めない」とは言っていません。
オンライン診療(遠隔診療)に欠かせないICTの技術力を懸念しているのです。
ICTとは、ITを使ってコミュニケーションを図る技術のことです。パソコンとスマホとインターネットで医師と患者をつなぐオンライン診療(遠隔診療)は、ICTの技術なしには成立しません。
なぜ中川副会長がICTに懐疑的な印象を持っているかというと、患者にとって有用かつ安全であるという十分な証拠がまだ存在しないからです。
「証拠」は「エビデンス」と呼ばれ、医療界ではとても重視されています。
オンライン診療(遠隔診療)の核となるICTが患者の健康を増進させたというエビデンスがない、というのが中川副会長の見解のようです。
遠隔画像診断には厳格なルールが必要
さらに中川副会長は「遠隔画像診断」にも言及しています。
遠隔画像診断とは、対面診療で患者を診た医師が、患者のCTやレントゲンの画像データをインターネットで別の医師に送り、見解を尋ねる仕組みです。
CT画像やレントゲン画像を読み解く技術は「読影(どくえい)」といい、難しい画像の読影は医師ですら特別な訓練を受ける必要があります。
そこで、ある医師が判断が難しい画像に出会ってしまった場合、遠隔画像診断を使って読影に強い医師の力を借りるわけです。医師の能力を最大限活用できることから、遠隔画像診断はオンライン診療(遠隔診療)の大きなメリットと考えられています。
中川副会長は、遠隔画像診断のどこを問題視しているのでしょうか。
中川副会長は、遠隔画像診断を拡大するには厳格なルールが必要だ、と述べています。この指摘は、個人情報保護の観点からも重要な提言といえるでしょう。
また患者の立場としても、正確な画像診断が行われるための厳しいルールがあったほうが安心できます。
医療費削減ありきの新しい医療を懸念
中川副会長はまた、「医療費削減のためにICTを活用しようとするなら、医療の否定につながる」とも述べています。この意見は、中川副会長のその他の意見とは性質が異なります。
オンライン診療(遠隔診療)の医療としての質ではなく、「動機」を問題にしているのです。
オンライン診療(遠隔診療)は医療費の削減につながることが期待されていますが、しかし中川副会長は、医療費削減を目的として新しい医療を導入することに懸念を示しているのです。確かに医療費削減ありきの医療は、国民にとってありがたくない医療です。それで「医療の否定につながる」と強い言葉で指摘しているのでしょう。
19%の医師が反対、少ないのか多いのか
日本経済新聞社の雑誌「日経ビジネス」は2016年にオンライン診療(遠隔診療)に関するアンケートを行い、約3,500人の医師から回答を得ました。
オンライン診療(遠隔診療)を「患者の利便性が向上するので推進すべき」と考えている医師は28.6%いました。これは「診察の基本は『見て聞いて触れる』なので、オンライン診療(遠隔診療)には反対」の19.2%をはるかに上回る数字です。
オンライン診療(遠隔診療)支持派が多いことは分かりましたが、ただこの数字は「賛成が3割しかいない」「反対が2割もいる」とも読み取ることもできます。
オンライン診療(遠隔診療)に反対する理由を尋ねたところ、次のような回答が寄せられました。
- ・オンライン診療(遠隔診療)で見落とした場合の扱いが不明瞭。こんな危ない橋を渡る医師の気がしれない。
- ・システム構築にお金がかかる。結局システムを提供する企業が儲かるだけではないか。
- ・診療は、喋り方、顔色、目の色、舌の感じなど、医師が五感で感じることが基本。
- ・ネットを介したインタビューとわずかなバイタルサインの情報だけで診断することは、診療とは呼ばない。占い師と同レベル。
- ・遠隔で診療するより、患者の移動を確保すべき。そのほうが設備投資の効率が良い。
- ・小児科では、患児の診察と保護者からの情報の2本立てが基本。オンライン診療(遠隔診療)では難しい。
これはすべて医師による回答です。
かなり辛辣な意見が並んでいます。患者の利益を熟慮して反対している医師が多いことが分かります。
経済性を重視しすぎているから反対
大阪府保険医協会は「オンライン診療(遠隔診療)の導入に反対する」と明言しています。同協会は約6千人の医師が所属している団体です。これだけ大きな医師の組織が、ホームページ上で特定の医療を否定することは異例といっていいでしょう。
その反対理由をまとめると、次のようになります。
- ・オンライン診療(遠隔診療)の本質は、医療を市場としてとらえビッグビジネスの拡大として位置付けるものである
- ・医療のプロである医師の行為が軽視されている
- ・「オンライン診療(遠隔診療)は国民の受診機会を向上させる」と言っているが、受診機会を阻害している原因は低賃金労働のせい
- ・医師を対象にしたアンケートでも対面診療の重要性を訴える声が多く寄せられた
- ・医師は聴打診、触診、患者の仕草、患者の雰囲気をみて治療方針を決定している
オンライン診療(遠隔診療)の推進派はオンライン診療(遠隔診療)の利便性だけでなく経済的なメリットも重視していますが、大阪府保険医協会は現行のオンライン診療(遠隔診療)の進め方が経済性を重視しすぎていると映っているようです。
安易だからダメ?
全国保険医団体連合会もオンライン診療(遠隔診療)に反対する立場を取っていますが、離島やへき地での利用や、医療分野におけるICT技術の発展については「期待する」と述べています。
ではなぜオンライン診療(遠隔診療)に反対しているのでしょうか。同連合会は次のように述べています。
「国は、通院困難な環境や状態にある人に対して、オンライン診療(遠隔診療)を持って良しとせず、これらの人が対面診療を受診できるよう、医師不足対策や救急搬送システムの整備に勤めることが必要である」
つまり、オンライン診療(遠隔診療)という安易な方法に頼りすぎるな、と警鐘を鳴らしているのです。
患者のなりすましをどう防ぐか
オンライン診療(遠隔診療)の最大の問題点は、患者によるなりすましなのかもしれません。
オンライン診療(遠隔診療)の拡大には経済効果が期待できることから、国内最大の経済団体である日本経済団体連合会(経団連)はオンライン診療(遠隔診療)を推進する立場を取っています。
しかしその経団連ですら、オンライン診療(遠隔診療)において医師や患者の「なりすまし」問題についてはきちんと対応すべきと考えています。
経団連が「なりすまし」対策のひとつとして挙げているのが、本人確認制度の整備です。最近では指紋だけでなく静脈や顔などで個人を特定できるようになりました。これを生体認証技術といいます。
この技術をオンライン診療(遠隔診療)に活用すれば、「なりすまし」を防止できそうです。
ただ、悪意がある患者が生体認証を済ませた後に別の人に受診させることは、オンライン診療(遠隔診療)であれば難しくないでしょう。市販されていない強い薬を大量に仕入れることも不可能ではありません。
患者が医師以外の医療機関スタッフと会わずに医療を受けられることはオンライン診療(遠隔診療)の長所なのですが、医師と患者が結託すればこの長所が簡単に悪用できてしまいます。
患者の取り違えをどう防ぐか
「なりすまし」は悪意がある場合に起きる問題ですが、故意がなくても「取り違え」は起きてしまいます。
患者を取り違える事故は、対面診療ですら頻発しています。
愛知県の総合病院で2017年4月に、胃がん患者の検体と胃潰瘍の患者の検体を取り違えてしまい、胃潰瘍だった患者に胃を切除する胃がん手術をしてしまうという医療事故が発生しました。
検体とは、患者から採取した細胞や組織などのことで、顕微鏡で調べたりします。
検体は、医師または看護師が直接患者に接触して採取します。検体を入れる容器には患者の氏名などが書かれたシールを張り、厳重に管理しています。
それでも取り違えは発生するのです。
繰り返しになりますが、オンライン診療(遠隔診療)では患者を視認するのは医師だけになります。医師が勘違いしてしまったら、患者の取り違えをチェックする人はいません。
オンライン診療(遠隔診療)に反対する医師はよく「オンライン診療(遠隔診療)を安全・確実に行うには、IT機器の性能がまだ不十分」と言いますが、患者のなりすましや取り違えを予防するハードの開発は急がれるべきでしょう。
それでも流れは止まらない
これまでオンライン診療(遠隔診療)についてのネガティブな意見を並べてみましたが、ただ「オンライン診療(遠隔診療)が拡大する流れは変わらない」ということは揺るがないでしょう。
その根拠は大きく2つあります。
1つ目は、オンライン診療(遠隔診療)を疑問視する医師や専門家はいても、オンライン診療(遠隔診療)を完全否定する医師や専門家はほとんどいないということです。
医師不足と看護師不足と医療費の膨張は、日本の医療制度を揺るがす大問題で、オンライン診療(遠隔診療)はその解決の切り札になる可能性があるからです。
2つ目は、政府がオンライン診療(遠隔診療)を強力に推し進めていることです。
オンライン診療(遠隔診療)は、世界最大のビジネスのひとつであるインターネット産業と密接に結びついているので、日本経済の起爆剤として期待されています。
また、ネットとのつながりが深いということは、若年層に受け入れやすい医療といえます。現在の若い人の多くは、それほど医療を必要としないので、オンライン診療(遠隔診療)を後押しする勢力にはなっておらず、医療を必要としている高齢者層の中にはネットの扱いに慣れない人も多くおり、そういった方は誰かの手助け無しでオンライン診療(遠隔診療)を行う事は難しいものがあります。しかし、20年後30年後には、現在ネットに慣れ親しんでいる若年層も年を重ねて医療を求めるようになってきますので、状況が一変することでしょう。
まとめ:反対派を納得させる技術革新を
かつてはスマホが「携帯電話」と呼ばれていた時代がありました。その前は「PHS」という通信機器が主流で、その前は「ポケベル」が使われていました。
それより前の「固定電話」の時代に、現代のような「スマホ社会」を予想できた人が何人いたでしょうか。
そのように考えると、オンライン診療(遠隔診療)の反対派たちを納得させる技術が現れて、オンライン診療(遠隔診療)が当たり前の医療になる時代が来ないとも限りません。
いずれにしましても、技術革新の到来が待ち遠しいですね。
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