Telemedicine Report
記事リリース日:2018年8月17日 / 最終更新日:2019年1月21日
日本医師会(日医)の副会長が2018年6月、公の場で「オンライン診療(遠隔診療)はあくまで対面診療の補完」「初診でのオンライン診療は認めない」と強調しました。
同年4月にオンライン診療は医療保険の対象となり本格稼働しましたが、それ以前から消極姿勢を示していた日医はスタンスを変えていません。
副会長以外の日医会員医師からも「ビジネスチャンスのためにオンライン診療が拡大するのはおかしい」といった痛烈な意見が出ています。
オンライン診療に消極的な日医ですが、「何を問題視しているのか」を読み解くと、よりよいオンライン診療の姿がみえてくるかもしれません。
目次
日医がオンライン診療(遠隔診療)に消極的な理由を知るには「そもそも日医とはどのような団体なのか」を知る必要があるでしょう。
日医の正式名称は、公益社団法人日本医師会といい、国内の医師約16万7千人が登録する学術専門団体です。
国内のすべての医師人数は約32万人(2016年)なのでおよそ半数が日医に登録していることになります。学術専門団体といっても、学会のように医療研究を行っているわけではありません。
日医を1916年に立ち上げたのは北里柴三郎博士たちです。北里氏は日本医学会の偉人の1人で、ペスト菌を発見した功績などでノーベル生理学・医学賞候補にもなりました。
日医は由緒と権威を兼ね備えた巨大組織といえます。
その巨大組織の活動のうち、最も優先度が高いのが「医療政策の確立」です。一般の方は、「医療政策は政府や厚生労働省がつくり、医師や日医はそれに従って医療を進める」と思っているかもしれませんが、実際はそうではありません。
高度に専門的な内容になる医療政策は、厚生労働省の官僚や国会議員だけでつくることはできず、大学医学部の教授や民間病院の医師たちの意見が色濃く反映されているのです。
そして医療政策に関与している教授や医師たちが日医の会員であることは珍しくありません。
だから「日医も医療政策をつくっている」といえるのです。
日本経済新聞は日医について、2010年4月2日付け「日本医師会は生まれ変われるか」の記事のなかで、次のように定義しています。
医師たちが政治的に強い発言力を持つことは、プラス面とマイナス面があります。現場の責任者の意見が政治に反映されやすい点はプラスですが、業界の利益誘導に陥るリスクはマイナスです。診療報酬の引き上げは、医師たちの収入アップに直結します。
日医のこうした性格と、オンライン診療に関する消極的な発言は、無関係ではないようです。
日医は一貫してオンライン診療(遠隔診療)には消極的でした。2017年3月には、当時の日医副会長の中川俊男医師が、公の場で次のような意見を述べました。
中川氏の「補完にすぎない」「証拠が必要」「厳格なルール」「医療を否定する可能性」というワードからは、オンライン診療に対する強いネガティブな気持ちがみえます。
中川氏はこれを、日医副会長の立場で発言しています。
中川氏の発言は、オンライン診療(遠隔診療)が本格稼働する2018年4月のちょうど1年前のものです。
それでは本格稼働した後は、日医の考え方は変わったのでしょうか、そのままなのでしょうか。
2018年6月、日医は臨時代議員会という会合を開きました。現副会長の今村聡氏はそこで「オンライン診療はあくまで対面診療の補完。方針を変えるつもりはまったくない」と発言しました。
オンライン診療への消極姿勢は「そのまま」のようです。
この会合ではそのほかの代議員医師から次のような意見が出ました。
こうした意見からは、日医の強い危機感がうかがえます。
ただ日医は、オンライン診療(遠隔診療)が対面診療と同レベルに扱われることには反対していますが、オンライン診療の必要性も理解しているようです。
ということは、今後オンライン診療の浸透とともに、日医の考え方も変わるかもしれません。
もし国内最大級の医療系団体がオンライン診療を積極的に支持してくれたら、オンライン診療を受けている患者にとっても、オンライン診療を行っているクリニックの医師にとっても「よいこと」となるでしょう。
日医が積極的にオンライン診療を推進することはあり得ないのでしょうか。
日医副会長の今村氏が作成しネット上に公開されている「オンライン診療の現状と課題」という資料に、そのヒントがありました。
今村氏は資料のなかで「オンライン診療を本当に必要としている患者に提供を」と述べています。へき地や離島の患者や在宅医療を受けている患者に限定はしていますが、これはオンライン診療を積極的に評価している内容です。
また、「オンライン診療に適した医療とそうでない医療を見極めよう」とも述べています。オンライン診療に適した医療を探す気持ちは、積極姿勢といえるでしょう。
今村氏が懸念するのは、「オンライン診療を安易な営利手段として利用することを考える医師」の存在です。今村氏は、そのような医師が「いることは事実」と述べています。
この意見には、一般の人もオンライン診療に取り組んでいる医師も賛同できるのではないでしょうか。
そしてこの資料は次のように結ばれています。
「科学技術の進展により、オンライン診療の範囲は変わっていくと考えます」
オンライン診療がよい方向に変わっていけば、日医の考えも変わるかもしれません。
「オンライン診療の現状と課題(2018年3月27日)公益社団法人日本医師会副会長 今村聡」の公開資料のURLは以下のとおりです。
http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/suishin/meeting/discussion/180327/180327discussion03.pdf
人の力を凌駕する医療を提供できる医療技術は、珍しいものではありません。CTは人が見えない部分を見せてくれますし、薬は人が治せない病気を治してくれます。手術支援ロボットもこの5年でだいぶ普及しました。
AI(人工知能)もすでに、医師たちが見落としていた情報を拾い集めて有益情報に加工できるレベルにまで進化しています。
そのように考えると、オンライン診療(遠隔診療)も、医師が患者と接触しきれない部分を補っているので「人の力を凌駕する医療」といえそうです。
日医を含め、すべての医師がオンライン診療の改良に協力してくれれば、患者の利益は大きくなりますね。
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