「病名」と「必要な検査」と「重大な病気の可能性を排除する検査」を示す
ホワイト・ジャックに患者の予診や問診の情報、さらに患者の生活習慣や生活環境などのデータを読み込ませると、病名候補を示すとともに、病名ごとに必要な検査や薬も教えてくれます。
ちなみに予診とは、患者の症状の訴えや本人・家族の既往歴などのことをいいます。問診とは、医師や看護師の質問に患者が答えることで得られる情報のことです。
ホワイト・ジャックはさらに、似た症状を引き起こす重大な病気のことも医師に教え、その病気の可能性を排除するための検査方法も提示してくれます。
先ほど紹介した山口県の医療事故を例に取ると、「この症状だと腹部大動脈りゅう破裂の可能性を否定できないので、念のためCT検査をするように」といった提案をしてくれるわけです。
ホワイト・ジャックをどうやって賢くするか
AIであるホワイト・ジャックは、コンピューターを組み立てただけではまだ賢くありません。教師をつけて学習させる必要があります。
ホワイト・ジャックの教師のひとつは、医学教科書や文献、論文です。これは医師の「教師」でもあります。すなわちホワイト・ジャックは、医学部生が医師になるために必要な勉強を積み重ねるわけです。
人間である医学部生や医師は、勉強を長時間続けると飽きたり疲れたりしますが、ホワイト・ジャックはコンピューターなので、飽きも疲れもありません。しかもコンピューターは、暗記は得意中の得意です。
ホワイト・ジャックはさらに、現場の症例データや診療情報も次々吸収していきます。例えば医師が10人いる病院にホワイト・ジャックを導入すれば、ホワイト・ジャックは「同僚」の10人の医師の診療方法を学習することができるのです。
ホワイト・ジャックが現場の医療をリアルタイムで学べる意義は大きく、そのことで患者や病気の地域特性を把握することができます。
あくまで「支援」に徹する
AIがどれほど賢くなろうと、ホワイト・ジャックの仕事は「診療」ではなく「診療の支援」です。ホワイト・ジャックは複数の提案をするだけで、最終的に診断を下すのは必ず医師です。
しかしその支援は、現場の医師が強く求めるものでしょう。発症確率は低いものの疑わなければならない重大な病気や、特定の検査をやらなければ診断できない検査などは、専門医にとっては当たり前のことでも、その専門ではない医師にとっては「特別な知識」です。
特に地方の医師は、自分の専門分野の患者だけ診ることは許されず、専門外の病気も次々治療していかなければなりません。そのようなときにホワイト・ジャックがそばにあれば、医師は常に「特別な知識」に基づいた助言を得られるわけです。
ホワイト・ジャックはまだまだ賢くなる
現状のホワイト・ジャックは、文字情報のみで学習します。予診や問診も文字情報に変換してからホワイト・ジャックに読み込ませることになります。論文や医師の診療情報も文字情報です。
しかし将来的には、患者の顔色や身体特性という画像情報も、病名推測の資料にできるようになります。さらに医師と患者の会話から心理状況を分析できるようになるかもしれません。
文字だけでなく画像や音声の情報を活用できる点も、AIを使うメリットです。