記事リリース日:2019年8月29日 / 最終更新日:2019年8月29日
緊急避妊薬(アフターピル)は、コンドームを使わずに性交をしてしまい望まない妊娠をする可能性がある場合などに使う薬です。
性交から72時間以内にこの薬を飲めば妊娠する確率を下げることができますが、医師による処方が必要なので医療機関にかからなければなりません。
時間的な制約があることから、医師がオンライン診療を使って緊急避妊薬を素早く処方できると便利なのですが、厚生労働省は初診からオンライン診療を実施することを認めていません。
また産婦人科医たちで構成する日本産婦人科医会も、オンライン診療を初診から使って緊急避妊薬を処方することには消極的な姿勢です。
しかし女性医師たちで構成する日本女性医療者連合などは、厚生労働省に、オンライン診療による緊急避妊薬の処方を解禁するよう強く要望しています。
両者の主張を紹介します。
そもそも緊急避妊薬とは
緊急避妊薬は避妊方法のひとつですが、コンドームのように簡単に購入することはできません。副作用があるため、医師による処方が必要な薬だからです。
一般的な避妊薬であるピルは、妊娠を望まない女性が定期的に飲むことで、コンドームなしの性交でも妊娠の確率を低下させます。
ただピルを入手するのにも医師による処方が必要ですし、定期的に飲む必要があるので予定されている性交にしか対応できません。
緊急避妊薬が必要になるのは、文字通り緊急事態のときです。
望まない性交を強要されたり、予定していなかった性交時にパートナーがコンドームの使用を拒んだり、性交中にコンドームが破けたりして精子が子宮内に入ってしまったときに、事後に使うことを想定しています。
緊急避妊薬は中絶法ではありません。
性交後72時間以内に飲むと、排卵や受精卵の着床を抑制する効果が期待できます。
薬によって避妊効果は60%程度だったり80%以上あったりします。
緊急避妊薬の使用に医師の処方が必要なのは副作用が小さくないからです。
吐き気や嘔吐といった副作用がある他、日本産婦人科医会は服用した女性の健康被害を危惧しています。
「初診NG」と「72時間のシビアさ」のギャップ
オンライン診療は、医師のパソコンと患者のスマートフォンをインターネットのテレビ電話システムでつなぎ、両者がネット上のやりとりだけで診療を行う仕組みです。
2018年4月に公的医療保険の対象になりました。
しかし厚生労働省はオンライン診療の導入に慎重で、そのため今回の本格導入でも、初診からオンライン診療を行うことを禁じています。
オンライン診療を開始できるのは、対面診療による初診を受けて、さらに6カ月間は対面診療を続けなければなりません。
6カ月経てばオンライン診療を始めることができますが、そのときも、初診から6カ月間対面診療をした医師がオンライン診療をしなければいけないルールがあります。
これらのルールは緊急避妊薬の処方だけでなく、どの病気の治療でも適用されます。
このルールがあるため、事実上、女性が緊急避妊薬をオンライン診療で入手することはできません。
なぜなら、緊急避妊薬が必要な女性は、6カ月もクリニックに通う必要はないからです。
緊急避妊薬が必要な女性は「今すぐ」その薬を必要としているのです。
もちろん今すぐといっても、緊急避妊薬は72時間以内に飲めばいいので、その時間内にクリニックに行けばいいわけです。
しかし、例えば金曜の夜に性交をして月曜日が祝日の場合、女性が最短でクリニックに行くことができるのは火曜の朝ですので72時間をすぎてしまいます。
これまではオンライン診療がなかったので、女性は対面診療を使って「なんとかする」しかありませんでした。
しかし今は便利なオンライン診療があります。女性と医師が、スカイプを使う要領でインターネットのテレビ電話で診療を行い、処方せんをメール機能で送受信すれば、数時間以内に緊急避妊薬を手に入れることが「システム上は」可能になっているのです。
ところが「法律上は」それができないことになっているのです。
オンライン診療による緊急避妊薬の処方は、実施したほうがよいのでしょうか、しないほうがいいのでしょうか。
医師たちの意見は、賛成派と消極派にきっぱりわかれています。
両者の主張をみていきましょう。
オンライン処方消極派の意見
オンライン診療による緊急避妊薬の処方に消極的な考えを表明しているのは、日本産科婦人科学会や日本産婦人科医会です。
まさに緊急避妊薬に関わる医療を担う医師たちの団体です。
日本産婦人科医会は意見書を公開し、このなかで「緊急避妊薬をオンライン診療の対象薬品とすることには大いなる懸念を感じる」と明言しています。
そして、もし緊急避妊薬をオンライン診療で処方できるようにするのであれば、以下の3点を実施するよう求めています。
- 1)オンライン診療で緊急避妊薬を処方してから3週間後に、医師が女性に対し対面診療を行う機会を設けること
- 2)女性が緊急避妊薬を飲むところを医師が「その場で」確認すること
- 3)オンライン診療で緊急避妊薬の処方を行うことができる医師を限定すること。
具体的には産婦人科専門医か母体保護法指定医師、または高度な専門研修を受講した医師に限定すること
一般の人がこの3条件を読むと、かなり厳しい内容のように感じるのではないでしょうか。
女性としては、緊急避妊薬を飲んで避妊が成功すればそれで終わりにしたいところでしょう。薬を飲んで3週間後にあらためて医師のところに出向くのは負担が大きいような印象を持ちます。
そして、女性が薬を飲むところを医師が確認するのは「監視」のような感じがします。
さらに、オンライン診療による緊急避妊薬の処方ができる医師を限定してしまうと、女性が頼ることができる医師が減ってしまいます。
女性の利便性は著しく低下するでしょう。
日本産婦人科医会は厳しい条件を課す理由について、緊急避妊薬は複数回使わないほうがよい薬であることや、風俗産業や犯罪組織にこの薬が悪用されるリスクがあることなどを挙げています。
オンライン処方賛成派の意見
緊急避妊薬のオンライン診療による処方の実現を目指しているのは、産婦人科医も参加する日本女性医療者連合など3団体です。
3団体は厚生労働省に次の内容を盛り込んだ意見書を提出しています。
- 1)WHO(世界保健機関)は、緊急避妊薬はすべての女性が安全にできる薬であるとしている。医学的な管理下に置く必要はないともしている
- 2)国際産婦人科連合は、緊急避妊薬を服用した女性を後日フォローアップする必要はない、としている
- 3)処方する医師を産婦人科医に限定する必要はない
- 4)服用から3週間後の対面形式での受診は必要がない
慎重派の見解とはまったく真逆の考えです。
「被害」女性の立場になった意見表明といえます。
中立な立場の医療従事者は「初診は対面」が優勢
消極派と賛成派の意見は真っ向から対立していますが、比較的中立な立場にある医療従事者たちはこの問題をどのように考えているのでしょうか。
医療ニュースを発信しているm3.comは2019年3月に、開業医、勤務医、薬剤師を対象にした「緊急避妊薬のオンライン診療による処方」に関するアンケート調査の結果を発表しました。
初診は対面であるべき
開業医 60.2%
勤務医 46.1%
薬剤師 51.6%
初診からオンライン診療を認めるべき
開業医 18.3%
勤務医 30.8%
薬剤師 36.2%
わからない
開業医 21.5%
勤務医 23.2%
薬剤師 12.3%
結果は上記のとおりで、開業医、勤務医、薬剤師ともに「初診は対面であるべき」との意見のほうが優勢でした。
開業医と薬剤師は、「わからない」を「初診からオンライン診療を認めるべき」に加えても「初診は対面であるべき」のほうが上回りました。
開業医と勤務医のなかにはさまざまな診療科の医師が含まれているので、このアンケートに回答した人たちの大半は、緊急避妊薬問題について中立な立場にあると考えてよいでしょう。
まとめ~「被害者」がいるという観点はあるか
緊急避妊薬のオンライン診療での処方は、産婦人科医などの専門家の見地からするとリスクがある、となるようです。
ただ、望まぬ性交や望まぬ非避妊や望まぬ妊娠は、「被害者」を生むことになります。
したがって、一般的な医療ではあまり扱わない「被害者救済」の要素が、緊急避妊薬の処方には含まれます。
厚生労働省もこの問題は重視しているので、困っている女性を救うことができる方法を導き出していただきたいと思います。
※当院では緊急避妊薬の処方や緊急避妊薬処方のためのオンライン診療は行っておりません。
当クリニックのED・AGA・肥満治療はオンライン診療が可能です。
料金設定も「予約料500円+お薬の送料一律500円+お薬代」のみとなっております。
厚生労働省の告知に基づき、当クリニックでの初診は来院で受診して頂いた上で、
再診時よりオンライン診療による受診が可能となります。
新橋ファーストクリニック診療科目