Telemedicine Report
記事リリース日:2017年11月29日 / 最終更新日:2019年1月18日
オンライン診療(遠隔診療)に熱い情熱を傾ける医師や企業が増えています。
未来の医療の構築、医療過疎対策、医師の負担軽減、そして国民の健康増進――
オンライン診療は、こうした日本の医療問題の解決の切り札と考えられています。
しかしその期待とは裏腹に、遠隔医療の前にはさまざまな壁が立ちふさがり、進展を阻んでいます。
そこでオンライン診療(遠隔診療)の最も厚くて高い壁といわれている、経済市場における価値に焦点を当ててみます。つまりお金の話です。
一般的なビジネスの世界では、市場における価値を上げるには、経済合理性を持たなければなりません。例えば自動車は、経済を発展させるために非常に合理的な製品なので、世界中でつくられています。
果たして遠隔医療には、経済合理性があるのでしょうか。
目次
オンライン診療(遠隔診療)が発展・拡大するだろうとみているのは、医療コンサルティングを手掛ける株式会社シード・プランニング(本社・東京都文京区)です。
同社は2016年6月に、オンライン診療(遠隔診療)サービスの市場規模を計算しました。
その金額は年間77億5千万円に及ぶとのことです。市場規模とは、その分野で生産された商品や提供されたサービスなどを円換算したものです。
77億円を四捨五入して100億円としてみても、残念ながら市場規模としてはあまり大きな金額とはいえません。
例えばトヨタ自動車1社だけで年間30兆円近く売上げています。100億円の売り上げでは、トヨタ自動車の下請け企業の下請け、つまり孫請け企業の年間売上金額ぐらいでしょう。
しかし日本のオンライン診療(遠隔診療)はまだ始まったばかりですので、この77億円という数字を悲観する必要はないようです。
シード社の推計によると、オンライン診療の市場は2020年には192億円にまで拡大します。
2016年からわずか4年で2.5倍も成長するのです。
政府や日本銀行や経済団体がありとあらゆる策を打ち出してもなかなか経済成長が見込めない日本において、2.5倍も市場が拡大するのは本当でしょうか。
成長のカギは、オンライン診療が本格的な医療になることのようです。
2016年のオンライン診療(遠隔診療)の市場規模77億円の内訳をみると、本格的な医療としてのオンライン診療の割合は30%にすぎませんでした。残りの70%を占めたのは健康相談サービスだったのです。
しかし2020年には市場規模が192億円に拡大する一方で、本格的な医療としてのオンライン診療が40%、健康相談サービスが60%になる見込みです。
本格的な医療としてのオンライン診療とは、オンライン診療を行った医師が、公的医療保険からの診療報酬や自由診療による治療費を獲得することです。
一方の健康相談サービスとは、スマホやタブレットのテレビ電話機能を使った、医師による相談業務です。厚生労働省はこれを医療とは認めず、医療にとても詳しい人(医師)が、患者の悩みに助言を与えるだけ、とみなされています。
すなわちシード社は、将来的にはオンライン診療が単なる便利な健康相談の域を脱し、徐々に本物の医療になると予測しているのです。
オンライン診療(遠隔診療)をやりたいという医療機関が多く存在し、オンライン診療を受けたいという患者が増えているのは事実です。
需要と供給がこれほどマッチングしているので、なぜ日本でオンライン診療が活発に動き出さないのか? それは国の政策に問題があるようです。
対立構図を簡略化すると以下のようになります。
考え方 | 支持者 | 支持する理由 |
---|---|---|
オンライン診療に慎重派 | 厚生労働省と多くの医師たち | これまでの秩序を崩したくない。オンライン診療は患者を実際に診ないので不安。 |
オンライン診療に積極派 | 政府と経済産業省 | 社会貢献度が大きい。経済成長を引っ張る。 |
残念ながら、オンライン診療(遠隔診療)を拡充したほうがよいと考える医師はまだ少数派です。多くの医師は、オンライン診療の治療効果に懐疑的です。それは、医師が患者を実際に診ないことには、効果的な治療は行えないと考えるからです。
厚生労働省は2015年に、オンライン診療を全面解禁するかのような通達を出したのですが、その後、「全面解禁をしたわけではない。ただオンライン診療を否定することはしない」という見解を示しています。これは慎重派の医師の考えに同調したのでしょう。
一方、現在の政府は経済成長を政策の柱に据えています。経済面でオンライン診療(遠隔診療)を見ると、新しい医療機器の開発や医師の新しい働き方を導入できるオンライン診療は経済活性化の起爆剤と映ります。
政府は2015年6月、経済財政運営と改革の基本方針に、遠隔医療(≒遠隔診療)の推進を盛り込むことを閣議決定しました。
こうした政府方針に基づいて動くのが、経済産業省です。
いずれにしても、日本のオンライン診療(遠隔診療)のあり方を決める厚生労働省、医師たち、政府、経済産業省の4者が同床異夢では、オンライン診療市場の拡大の足かせになることは間違いありません。
日本のオンライン診療(遠隔診療)の発展を危惧するのは、経済アナリストも同様のようです。
マーケティングや市場調査を得意とする株式会社テクノ・クリエイト(本社・東京都中央区)は2013年に、日本のオンライン診療は普及していないとの見解を示しています。
同社によると、1997年から2013年までに、全国で900の遠隔医療に関わる事業が行われたが、実際の導入に進んだケースはほとんどないそうです。
テクノ社が挙げる、オンライン診療が拡大しない理由は以下の通りです。
オンライン診療(遠隔診療)の拡充をはばむこれらの障害の中で、テクノ社が最も重視しているのは国の対応、つまり法律による規制の強さです。テクノ社は規制が緩和されない限り、優れたシステムや医療機器が開発されても、また、民間企業の参入が進んでも、日本のオンライン診療は普及しないと結論付けています。
では、日本のオンライン診療(遠隔診療)は拡大したほうがいいのでしょうか、それとも拡大しないほうがいいのでしょうか。
この疑問については、答えが出ています。
オンライン診療に慎重とされている厚生労働省や多くの医師たちも、オンライン診療を否定していません。
また「オンライン診療は国民の健康増進に貢献する」という見方は、誰も否定できないでしょう。
そして経済合理性の面から考えても、オンライン診療(遠隔診療)は充実させるべきです。世界の医療を見渡すと、オンライン診療市場は拡大の一途だからです。
さきほど紹介したテクノ社によると、アメリカ、カナダ、オーストラリア、北欧では、伝統的に遠隔診療が盛んです。
国土が広ければ広いほど、人口密度が小さければ小さいほど、遠隔診療は活躍できるからです。こうした国におけるオンライン診療のメリットは、リアルタイムであることです。
日本のように医師不足と言われつつも、診療所はむしろ飽和状態にあると、このリアルタイムという視点を一般市民が持つことは難しいかもしれません。
しかし例えばオーストラリアでは、医師がセスナ機で往診したりします。そうなると、インターネットとスマホやパソコンを使って即時に医師とつながることができることは、重要な医療環境といえるでしょう。
世界は確実に、オンライン診療を広げる方向で動いています。
そして、人口が減っている日本も、人口密度が小さくなるのは確実です。
日本を訪れる外国人観光客が急増しています。これまでは日本の常識は世界の非常識と言われても笑っていれば済まされました。
しかし外国人向けの観光事業が日本の経済の大きな柱に成長すると、日本の常識を世界の常識に合わせていかなければなりません。
それと同じことが、医療界でも起きているのではないでしょうか。
「オンライン診療(遠隔診療)は良い医療である」ということを疑う医療関係者はいないでしょう。もちろん、まだまだ課題や問題は存在しますが。
しかし今後は、その課題や問題をなしにする方向ではなく、解決する方向に進んでいかなければならないでしょう。
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