Telemedicine Report
記事リリース日:2017年12月15日 / 最終更新日:2019年1月21日
オンライン診療(遠隔診療)と保険点数の関係は、とても根深いものがあります。便利さが証明されているはずのオンライン診療(遠隔診療)が爆発的に拡大していないのは、保険点数が付いていないからともいえるのです。
医療従事者ではない一般の人にとってあまり関心のない問題のように思えますが、そうではありません。
将来、オンライン診療を使うようになった場合、保険点数と公的医療保険制度の2つは、身近な大きな問題に発展しかねません。
なぜなら、みなさんのお金に深く関わることだからです。
目次
オンライン診療(遠隔診療)と保険点数の問題を理解するには保険点数と保険診療と自由診療の違いについての知識が欠かせません。
とはいえ、とても簡単ですので安心してください。
日本の医療には、保険診療による医療と自由診療による医療があります。
保険診療とは、国が「治療Aを保険診療として認める。治療Aの治療費はB円とする」と決めた医療のことです。
例えば胃がんの手術で行う胃の摘出(治療A)は、55万8,700円(治療費B円)です。
日本全国どの医療機関でも、治療Aの治療費はB円です。そして患者は原則B円の3割を医療機関に支払えばよく、残りのB円の7割は公的医療保険者が病院に支払います。
治療費B円について国は、「保険点数」という形で管理しています。
例えば55万8,700円の治療費は、55,870点と表記しています。
保険点数(点)×10(円/点)=治療費(円)となります。
一方の自由診療とは、国が「治療Cは保険診療として認めない。ただ禁止はしない」と決めた医療のことです。
例えば、美白のためにプラセンタを注射したり、インフルエンザの予防のためにワクチンを接種することは、いずれも自由診療です。
自由診療の治療費D円は、医療機関が自由に設定できます。インフルエンザワクチンが医療機関によって高かったり安かったりするのはそのためです。
治療Cは保険診療ではないので、D円には保険点数はついていません。
それでは本題の、オンライン診療(遠隔診療)と保険点数について解説します。突然ですが問題です。
どういうことかというと、オンライン診療(遠隔診療)にはたくさんの治療メニューがあるのですが、保険診療として国が認めているのはほんの一部なのです。
そしてオンライン診療のほとんどの治療メニューは、自由診療として行われているのです。
つまり、ほとんどのオンライン診療に、保険点数は付いていません。
オンライン診療ではなく、これまでの診療方法を「直接の対面診療」といいます。
以下の表は、直接の対面診療とオンライン診療の比較です。
保険診療として認められているものを「○」、保険診療として認められていないものを「×」としました。
この表で注目していただいたいのは、初診料と再診料です。
オンライン診療(遠隔診療)では、初診料が保険診療として認められていないのです。
オンライン診療の初診料が保険診療になっていないことは、オンライン診療の普及をはばむ一つの要因になっています。
初診料の保険点数は282点(2,820円)とかなり高いので、もしこれが保険診療に認定されれば、「オンライン診療を始めてみようかな」と考える医師が増えると考えられるからです。
一方、オンライン診療(遠隔診療)による再診には保険点数が付けられています。このことは喜ばしいことではあるのですが、関係者の喜びは半分といったところです。
というのは、これまでも医師が電話で患者に療養上の指導をすれば、再診料の72点(720円)を算定できているのです。
ところがオンライン診療は、パソコンやスマホやインターネットやIoT医療機器(インターネットにつなげることができる血圧計などのこと)といった、とてもコストがかかるハードを利用しています。なのに昔ながらの電話による再診と同じ治療費しかもらえないのです。
オンライン診療(遠隔診療)を行っている医師や、オンライン診療の医療機器を開発している企業は、オンライン診療の多くに保険点数が付くことを待ち望んでいます。なぜでしょうか。
それは保険診療は全国一律の料金設定になっていて、なおかつ公的医療保険者が治療費の7割も負担してくれるからです。
全額自己負担で、治療費の「相場」が不透明なこともある自由診療では、患者の治療を受けようという意欲は大きくなりません。
ちなみに公的医療保険者とは、協会けんぽや健康保険組合、国民健康保険を運営している市町村などです。
国が保険診療に認定した治療は、全国に普及しやすいのです。というより、保険診療にならないと全国に普及することは難しいとすらいえるのです。
そこで、オンライン診療(遠隔診療)を積極的にすすめたい医師や企業などは、オンライン診療にも直接の対面診療と同じくらい保険点数を付けてほしいと国などに強く求めているのです。
IT好きな医師が自由診療で実施し、裕福な患者が受けるのであれば、それが安全でさえあれば、厚生労働省は比較的寛容にオンライン診療(遠隔診療)をながめているでしょう。
しかし保険点数を付けるとなると、厚生労働省は途端に慎重になります。
厚生労働省が慎重なのは、医師の中にはオンライン診療を否定的に見ている人がいるからです。
厚生労働省としては、オンライン診療(遠隔診療)の賛成派と反対派の調整を取らなければなりません。
厚生労働省がある治療に保険点数を付けるということは、国がお墨付きを与えるようなものです。
これまでも、保険点数が付いた医療によって医療事故が起きたことがあります。そのとき厚生労働省は、お墨付きを与えた責任を問われました。
国が慎重姿勢を崩さないのは、そのためもあるでしょう。
保険点数は頻繁に変更になります。厚生労働省は国民の健康を増やす治療の保険点数を高くして、効果が薄れた治療の保険点数を低くします。
保険点数を変更したり、新しい治療に新たに保険点数を付けることを、診療報酬の改定といい、2年に一度行われています。
最も近い診療報酬の改定は2018年です。2017年8月現在、医療関係者の多くは、2018年改定で保険点数が付くオンライン診療(遠隔診療)は増える、と予想しています。
しかし別の専門家は、2018年改定にはそれほど期待していない、地道にオンライン診療(遠隔診療)の普及活動を続け2020年改定で拡大すればよい、と述べています。
2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、電子機器メーカーは製品の開発を急ピッチに進めていますので、オンライン診療の機器ももっと進化しているでしょう。
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