Telemedicine Report
記事リリース日:2017年12月25日 / 最終更新日:2019年1月21日
あのYahoo!が満を持して遠隔医療相談ビジネスに参入しました。
遠隔医療相談といえば、これまではクリニックの院長が患者サービス向上のために細々と行っているイメージがありましたが、Yahoo!が2016年に開始した「かんたん医療相談」は規模が違います。回答する医師が4,500人もいるのです。
なぜIT企業のトップランナーであるYahoo!がこの事業を始めたのでしょうか。それは遠隔医療相談がとてつもなく大きな市場に成長する可能性を秘めているからです。
※こちらの記事には前編がございますので、先にこちらの記事をご覧頂く事をおすすめします。
目次
Yahoo!の「かんたん医療相談」は、利用者が月額324円(税込)を支払い、スマホやパソコン上で病気や治療に関する質問をして、医師から答えが返ってくるというシステムです。
動画や画像はなく文章のみでのやり取りとなります。
操作は簡単です。ネット掲示板やYahoo!知恵袋のように質問文章を打ち込んで、回答を待ちます。
かんたん医療相談のビジネスは、遠隔医療相談というジャンルに属します。遠隔医療相談とはモバイル端末を使った遠隔医療の一種で、遠隔医療の中には、遠隔医療相談のほかにオンライン診療(遠隔診療)というメニューもあります。
ただ、オンライン診療(遠隔診療)のほうは一定の条件は付きますが既に厚生労働省に認められた医療行為になっているのに対し、遠隔医療相談はまだ法律上の医療行為になっていません。
つまり、遠隔医療相談は公的医療保険制度に組み込まれていないということになります。
【遠隔医療相談の位置づけ】
遠隔医療相談はできることは少ない?
厚生労働省に認められたオンライン診療(遠隔診療)と、そうではない遠隔医療相談では、お金の貰いかたが大きく異なります。
オンライン診療(遠隔診療)を行っている医師や医療機関は、患者本人や公的医療保険制度からお金を貰うことができます。このお金のことを診療報酬といいます。
公的医療保険を使う医療ではすべての医療行為の料金が決まっていて、このことを診療報酬制度といいます。
しかし遠隔医療相談を行っている医師や医療機関は、診療報酬を受け取ることはできません。
診療報酬としてではなく、単なるビジネス上の金銭として、利用者からお金をもらっているのです。
これだけ聞くと「診療報酬としては貰えなくても、ちゃんとお金自体は貰えているので問題ないのでは?」と感じるかもしれませんが、そうではありません。現行の遠隔医療相談の料金はとても低くなっているのです。この問題点については記事の後半で解説します。
また、オンライン診療(遠隔診療)では処方せんを発行したり、医療用の医薬品を患者に渡すことができますが、遠隔医療相談ではどちらもできません。
では遠隔医療相談はできることが少ないのかというと、そうではありません。むしろ、法律に縛られないからこそ、いろいろなことを試すことができているのです。
例えば、医療情報大手の「メドピア」と在宅血液検査の「サンプリ」の2社は、それぞれの得意分野を合体させて、新しい遠隔医療相談ビジネスを立ち上げました。
サンプリの在宅血液検査とは、自宅に居ながら血液検査を行えるサービスです。ここでは医師や看護師も関わりません。
在宅血液検査を申し込むと、サンプリから血液検査キットが申込者の自宅に届きます。申込者は、そのキットの中に入っている針で自分指を刺し0.05ccほどの微量の血液をチップの上にのせます。そのチップを専用ボトルに入れてサンプリに返送すると、10日以内にサンプリから血液検査の結果が郵送されてきます。
便利なサービスですが、これだけでは足りないことが1つあります。
それは、医師の見解が聞けないことです。
従来型の健康診断であれば、医師が生活指導をしてくれたり精密検査を受けるようアドバイスしたりしますが、在宅血液検査にはそれがありません。
もちろん在宅血液検査の結果報告書によって、申込者は正常値や異常値が分かりますが、そこには医師の言葉の力はありません。
そこでこの在宅血液検査の仕組みに、メドピアの遠隔医療相談を組み合わせたのです。申込者は、スマホを介してとなりますが、本物の医師からアドバイスをもらえるのです。限りなく従来型の健康診断の血液検査に近付いたといえるでしょう。
先ほど、遠隔医療相談は“厚生労働省が認めた医療ではない”“公的医療保険制度に組み込まれていない”からこそビジネス上の自由度が高いと説明しました。
その実例が、不動産大手の東急不動産が発売した遠隔医療相談サービスを取り入れたマンションです。
東京都世田谷区に建つブランズシティ世田谷中町は、最低価格が6,270万円、最高価格が8,980万円の高級マンションです。
デジタルヘルスベンチャーのキッズパブリックという会社が、このマンションの入居者専用の「小児科オンライン」というサイトを開設しました。
子どもを持つ入居者が無料通話アプリのLINEや無料テレビ電話のSkypeを使って、小児科医に直接相談ができるのです。
相談できる時間帯は、通常の小児科クリニックなどが殆ど営業していない時間帯の18時~22時です。利用料金は無料です。
東急不動産は、遠隔医療相談サービスが受けられるマンションを増やしていく方針です。
世界に目を向けると、遠隔医療相談ビジネスの可能性はさらに広がります。
アフリカの医療といえば、ボランティア精神を持った医師たちが世界中から集まり、医療物資が足りない中で伝染病や重病と格闘しているイメージを持っているかと思います。
しかしアメリカの医療ジャーナリスト、サラ氏は「遠隔医療相談がこうした状況を一変させるかもしれない」と述べています。
サラ氏によると、アフリカで遠隔医療相談を行っているのはナイジェリアの医師で、サイト名は「Kangpe Health」といいます。
この医師はKangpe Healthを始める前に、自分の患者からメールで医療相談を受け、無料でアドバイスをしていました。
ナイジェリア国内で携帯電話やスマホの普及が進んだことで、医師のメールサービスが評判を呼び、これを事業化することにしました。
新たに会社を立ち上げて、医療相談を受け付ける専用のスタッフを雇いました。
Kangpe Healthの運営方法は、日本の遠隔医療相談のシステムと同じです。
利用者が質問できるのは10分以内で、最初は医療スタッフが回答します。
医療スタッフが患者の話を聞いて、もっと専門的な見解が必要と判断すると、医師が対応します。医師は治療が必要と判断したら、患者に受診を促します。
Kangpe Healthは、いまではガーナとケニアでも営業を行っています。
Kangpe Healthを始めた医師は、サラ氏のインタビューに対し「グーグルはアフリカ固有の病気について知りませんからね」と答えています。
つまり、アフリカの患者が自分の病気をグーグルで検索しても限界がある、というわけです。アフリカ特有の病気に精通したアフリカ人医師がアフリカで遠隔医療相談をやることに意味があるのです。
またこの医師は「アフリカの人たちが納得できる価格でこのサービスを提供していかなければならない」とも述べています。
遠隔医療相談を安価に提供することでアフリカの医療を充実させたい考えなのでしょう。
オンライン診療(遠隔診療)を使って医師が患者に療養上のアドバイスを提供すれば、医療機関としては1回720円の売上になります。医療保険制度の“再診”に該当するからです。
一方、まったく同じアドバイスを行ったとしても、それが遠隔医療相談になると医療機関の収入は大幅に減ってしまいます。
何しろあの巨大企業Yahoo!が運営している「かんたん医療相談」というサービスでさえ、利用者が支払う金額はわずか月324円なのですから。
遠隔医療相談の料金が安いことは、一見すると患者にとって良いことのように思えますが、メリットばかりではありません。医師の参加意欲が低下してしまうからです。
今後の課題は、適正な料金を決め、医師に適正な報酬を支払うことなのかもしれません。
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