Telemedicine Report
記事リリース日:2018年2月9日 / 最終更新日:2019年1月21日
ある新しい医療を世の中に普及させるとき、大学医学部や大学病院が果たす役割はとても大きいといえます。医療は研究と臨床という2つの大きな土台の上に立っているのですが、大学はその両方を同時に行うことができるからです。
オンライン診療(遠隔診療)という新しくて便利な医療を今後ますます拡大・発展させていくためには大学の協力が欠かせません。
私立医大の名門、東京女子医科大学は、少しユニークな切り口でオンライン診療(遠隔診療)の新たな可能性に挑戦しています。
目次
東京女子医大が2016年にスタートさせたオンライン診療(遠隔診療)の挑戦は、高血圧治療における非対面型オンライン診療(遠隔診療)と従来型対面診療の比較試験といいます。
高血圧患者の治療を、オンライン診療(遠隔診療)と対面診療で行い、どちらのほうがより高い効果を得られるか検証するのです。
東京女子医大がなぜこの取り組みを行うのかというと、医学部大学には研究と臨床の2つの役割があるからです。研究と臨床は、以下のような関係にあります。
医療は、実験や調査などを行う研究と、実際に患者に医療を提供する臨床から成り立っています。そして、さまざまな医療機関の中で、大学だけが研究と臨床の両方を受け持っているのです。
オンライン診療(遠隔診療)は新しい医療なので、研究という形で実験、調査、試験、統計を行った上で、オンライン診療(遠隔診療)は国内に広める価値があるということを立証しなければなりません。
しかしオンライン診療(遠隔診療)は、患者に直接働きかけることで力を発揮する医療なので、効果の立証では患者の反応を調べていく必要があります。つまりオンライン診療(遠隔診療)の研究は、臨床の現場で行ったほうがいいのです。
東京女子医大のルーツは、明治33年に創立した東京女医学校です。開学当初から現在まで、この大学に入学できる人は女性だけです。つまりこの大学は、女性医師しか育成しないのです。
大学の教授陣には男性医師も多くいますし、東京女子医科大学病院にも男性医師がいます。
「高血圧治療におけるオンライン診療(遠隔診療)と対面診療の比較試験」に取り組むのは、東京女子医大の高血圧・内分泌内科の市原淳弘教授のチームと、オンライン診療(遠隔診療)支援サービスを提供しているポート株式会社です。
東京女子医大はまず、本態性高血圧症と診断された20歳以上の人を、専用のホームページなどで募集しました。募集は2016年9月に開始し、2017年3月に終了しています。
本態性高血圧症とは原因が分からない高血圧症のことをいいます。
同じく高血圧の症状が現れる病気に二次性高血圧症がありますが、こちらはいずれかの臓器の障害によって発生する病気です。
また本態性高血圧症であっても、狭心症や心筋梗塞の経験がある人や、糖尿病や慢性腎臓病をもっている患者は参加できません。
つまりこの比較試験に参加できる患者は、「高血圧の症状しか持っていない人」だけとなります。
参加が決まった本態性高血圧症の患者はまず、東京女子医大側によって、オンライン診療(遠隔診療)を受けるグループと従来型の対面診療を受けるグループに分けます。この段階では患者には、どちらの診療を受けるかの決定権はありません。
オンライン診療(遠隔診療)は初診だけは対面診療を行いますが、その後は6週間に1度、スマホやパソコンで医師の診療を受け、医師が患者に診療方針を伝えます。
患者はさらに週3回以上、インターネットに接続した血圧計で測定し東京女子医大にデータを送信します。薬もオンライン診療(遠隔診療)で処方され、患者の自宅に届きます。
開始から1年が経過すると、患者はオンライン診療(遠隔診療)か対面診療を選択できます。
変更することもできますし、オンライン診療(遠隔診療)または対面診療を継続することもできます。
試験期間は2年から5年です。
参加する患者たちは、通常の保険診療分の治療費を支払います。
オンライン診療(遠隔診療)は「電話による再診」と同額になり、こちらも医療保険が適用されます。
オンライン診療(遠隔診療)で使う通信に関する費用は大学側が負担します。
東京女子医大がこのオンライン診療(遠隔診療)による高血圧治療に取り組む意義は、もうひとつあります。それは東京で行うということです。
東京女子医大病院は新宿にあります。日本の中心地であり、世界屈指の大都会です。
オンライン診療(遠隔診療)は当初、へき地や離島で使う医療としてスタートしました。へき地には医療が届きにくいので、最新の通信機器を使って適切な医療を提供しようと考えたのです。
しかし、都会は医療が届きやすいのでしょうか。
確かに都会における医療機関の数や医師の人数は、へき地の比ではありません。しかし都会の生活はとても忙しく「病院になんて行ってられない」という人ばかりです。
また地方は自宅から医療機関までの距離は長いのですが、広い道路や無料駐車場など自家用車を使う環境が整っているので、実は通院ストレスが少ないのです。
逆に言うと、都会は意外に通院ストレスが大きいのです。
本態性高血圧症の治療は、薬物療法と非薬物療法の2種類があります。
薬物療法とは、カルシウム拮抗薬やARB、ACE阻害薬、利尿薬、β遮断薬といった、血圧を下げる薬を飲み続けることです。
非薬物療法は、
の6種類があります。
薬物療法で使う薬はドラッグストアでは売っていませんので、薬物療法を続けるには、医者にかかり続ける必要があります。
非薬物療法も、患者にとっては誘惑との戦いになるので、やはり医師による支援がなければ継続できません。
つまり、本態性高血圧症は、通院ストレスが大きくなって通院が中断してしまうと治しにくい病気といえるのです。都会のほうが治りにくい病気ともいえ、だからオンライン診療(遠隔診療)による高血圧治療を東京で行う必要があるのです。
東京女子医大の高血圧・内分泌内科チームは、「本態性高血圧症の治療においては、オンライン診療(遠隔診療)のほうが対面診療より優れているのではないか」という予想を打ち立てています。
チームの予想内容は次の通りです。
大学医学部や大学病院には、実は医療行政の担い手という要素もあります。もちろん医療行政を進めるのは厚生労働省なのですが、大学に所属している医師たちは厚生労働省に意見をすることができるのです。
厚生労働省はオンライン診療(遠隔診療)に消極的でしたので、その厚生労働省を動かしてオンライン診療(遠隔診療)を普及させるには、同省に大きな発言力を持つ東京女子医大のような存在がとても重要なのです。
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