Telemedicine Report
記事リリース日:2018年5月2日 / 最終更新日:2019年1月21日
もし北海道旅行を計画して、絶品のウニとアワビを食べたいと思ったら、奥尻島は必ず候補地の1つに加えておいてください。
北海道の南西部の日本海に浮かぶこの島は、寒流と暖流に囲まれたおかげで良質な漁場に恵まれ、いつも採れたれの魚介類を食べることができます。
その奥尻島に2017年度にオンライン診療(遠隔診療)が導入されることが決まりました。
離島の医療が拡充されることは、とても喜ばしいことです。
しかしこのニュースを聞いて「いまごろようやく?」という印象を持った方も少なくないと思います。
オンライン診療(遠隔診療)は元々、へき地や離島のために役立てるはずでした。ところが先にオンライン診療(遠隔診療)が導入されたのは都市部です。
なぜオンライン診療(遠隔診療)が奥尻島に到着するまでにこれほど時間がかかったのでしょうか。
目次
奥尻島でオンライン診療(遠隔診療)を導入するのは、島内にある奥尻町国民健康保険病院(以下、奥尻病院と呼びます)です。
奥尻病院がパソコンやタブレットを保有し、それを島内の在宅患者や特別養護老人ホームに貸し出します。それで「患者宅と奥尻病院」「特養と奥尻病院」をインターネットでつなぐのです。
これまで奥尻病院の医師が在宅患者や特養に出向いて訪問診療を行っていたのですが、この訪問診療の一部をオンライン診療(遠隔診療)に切り替えます。
この「奥尻システム」は、奥尻病院と患者宅・特養をつなぐのであって、島外の病院と患者宅・特養をつなぐわけではありません。
まとめると次のような図になります。
奥尻島に最も近い大きな街は函館市になり、奥尻島の救急患者も函館の大規模病院に搬送することが大半です。
奥尻システムでは、奥尻病院と函館の大規模病院がつながります。また、函館の病院よりもさらに進んだ医療を手掛けている札幌市の病院と奥尻病院もつながります。
奥尻病院と函館や札幌の病院をつなぐ部分は、正確には「オンライン診療(遠隔診療)」ではなく「遠隔医療」といいます。
少し複雑なのですが、先ほどの概念図に書き足すとこうなります。
奥尻島民が病気に困ったら、オンライン診療(遠隔診療)を使ってこれまで通り奥尻病院の医師に相談します。
しかし奥尻病院ではすべての病気に対応できるわけではないので、奥尻病院の医師が対応に困ったら遠隔医療を使って、函館や札幌の専門医に相談することができるのです。
これは奥尻病院の医師には心強い仕組みになるでしょう。
それでは次に、奥尻島について紹介します。
奥尻島には約2,800人が暮らしています。主な産業は漁業と観光で、観光客は年間5万人ほどです。
奥尻島に行くには、北海道本島の江差からフェリーで行く方法のほかに、函館空港と奥尻空港の間には飛行機が飛んでいます。
奥尻島には空港もあるのです。
自治体名は奥尻町で、奥尻町は奥尻島のみを行政区域にしています。
続いて奥尻島の医療事情について見てみましょう。
奥尻島内には奥尻病院のほかに、診療所が1つあります。ただこの診療所は、奥尻病院の医師が持ち回りで担当していますので、実質医療機関は1件です。
そのほか歯科医院も1つあります。
奥尻病院(奥尻町国民健康保険病院)の事業管理者は奥尻町長になっています。
奥尻病院のベッド数は55床です。
離島の医療と聞いてドラマ「Dr.コトー診療所」を思い浮かべた人は、奥尻島の医療は「志木那島(しきなじま、ドラマの架空の島)の医療よりは全然充実している」と感じたかもしれませんが、そうではありません。
まったく「充実」からは遠い状態です。
奥尻島内で外科的な治療が必要になると函館市や江差に患者を運びます。
より緊急度が高い脳梗塞や心筋梗塞を発症すると、ヘリで搬送します。ヘリ搬送は年10~20件の間で推移しています。
さらに高齢化も深刻で2015年の65歳人口は37%で、これだけでも相当な数字ですが、2040年には53%にまで高まる見通しです。
高齢者が増えれば病気や障害を持つ人が増えるわけです。
奥尻島の医療は、3人の医師を始めとする医療従事者の献身的な対応によって支えられています。
今回のオンライン診療(遠隔診療)は2018年2月からスタートしました。
これにより医師たちの訪問診療の頻度が減るため、若干ではありますが過酷な労働状況が改善されるでしょう。
またこの訪問診療システムによって奥尻病院の医師は、いつでも函館や札幌の病院の専門医に相談できるようになるので、心強く感じているのではないでしょうか。
そこで気になるのが、なぜこの時期にオンライン診療(遠隔診療)が奥尻島に導入されたのか、ということです。
厚生労働省は実は、オンライン診療(遠隔診療)の拡大にあまり積極的ではありませんでした。
ただその厚生労働省ですら、離島やへき地でのオンライン診療(遠隔診療)の必要性はかなり前から訴えていました。
また医療従事者ではない一般市民でも、「離島の医師は大変だ。遠隔診療を使って離島を守っている医師が休めるなら素晴らしい」と賛同できるでしょう。
しかしオンライン診療(遠隔診療)は都市部で先に拡大し、奥尻島はようやく2018年にオンライン診療(遠隔診療)を手に入れることができるのです。
なぜ奥尻島でのオンライン診療(遠隔診療)の普及がこれほど遅れたのでしょうか。
答えは簡単で、予算の問題です。つまり、お金の事情です。
今回の奥尻島のオンライン診療(遠隔診療)では、新たにタブレット端末5台、パソコン5台、テレビ会議システムなどを購入するのですが、こうした通信設備だけで500万円かかります。
この費用の半額250万円は、北海道が補助します。
残りの250万円は奥尻病院が負担することになります。奥尻病院の事業管理者は奥尻町長なので、奥尻町役場が負担することになります。
自治体の予算に占める250万円は決して大きな金額ではありません。
奥尻町がいくら小さな自治体とはいえ、年間予算は一般会計と特別会計を合わせると60憶円近くに達します。250万円はその0.04%にすぎません。
しかし奥尻町は財政難にあえいでいるのです。
奥尻町は一時期、赤字再建団体に陥る危機を迎え、2008年度から2014年度までの7か年にわたって、奥尻町財政健全化計画を実施しました。
赤字再建団体とは、破綻自治体のことで、夕張市が陥った状態のことを指します。
財政健全化計画とは、俗な言い方をすれば「町をあげてのけちけち作戦」となります。
しかも奥尻町の財政を苦しめているのは、奥尻病院の経営なのです。
病院経営と聞くと「儲かりそう」と感じる方もいると思いますが、それは一部の大都市圏の民間病院の話であって、地方の公的病院はどこも赤字にあえいでいます。
公的病院はいわゆる「儲からない医療」も担わなければならないからです。
オンライン診療(遠隔診療)はコストがかからない医療と認識されていますが、ITやインターネットをふんだんに使うので初期投資はかかります。
地方の自治体はその初期投資が負担できず、遠隔診療(オンライン診療)の導入に踏み切れない状態なのです。
ただ奥尻システムが「オンライン診療(遠隔診療)はトータル的には運営コストがかからず、治療効果を高め、なおかつ医師たち医療従事者の負担を減らすこともできる」ということを証明できれば、一気に離島やへき地に広がるかもしれません。
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