Telemedicine Report
記事リリース日:2018年5月10日 / 最終更新日:2019年1月21日
糖尿病治療に力を入れている診療所がオンライン診療(遠隔診療)を導入するケースが増えています。糖尿病は悪化すると悲惨な病気を引き起こすのですが、悪化するまでは無症状のため、せっかく初期で糖尿病を発見できたのに治療を中断してしまう人が後を絶ちません。
オンライン診療(遠隔診療)の「面倒臭くないところ」が糖尿病の治療継続につながっているようで、今後のオンライン診療(遠隔診療)の普及・拡大により、糖尿病患者の治療の在り方が変わるかもしれません。
オンライン診療(遠隔診療)における糖尿病治療の可能性について探ってみました。
目次
まずはオンライン診療(遠隔診療)における糖尿病治療の流れを見てみましょう。
オンライン診療(遠隔診療)の糖尿病治療でも、初診は診療所に行き通常の対面診療を受ける必要があります。一部の例外を除き、基本的には「初診は対面診療を行うこと」ということが定められているからです。また、糖尿病の治療では検査がとても重要なので、初診をオンライン診療(遠隔診療)で行うことは、検査を行う事ができず物理的に不可能なのです。
初診時に保険証の確認や、次回以降に行うオンライン診療(遠隔診療)の申し込みなどを行います。
また、オンライン診療(遠隔診療)の操作方法、治療費の支払い方法などもこのタイミングで教わります。治療費の支払いはシステム上、多くがクレジットカード決済となるでしょう。
オンライン診療(遠隔診療)を受けるには、患者がスマホもしくはオンライン診療(遠隔診療)を行える環境のパソコンを持っている必要があります。
オンライン診療(遠隔診療)の実施は予約制にしていることがほとんどです。
予約はスマホで行います。診療所が開設しているホームページを開き、診療所が示す日時の中から、患者が都合のよい日を選択します。WEBサイト上でホテルやチケット等の予約に慣れている方であれば、これらと同様の要領で行えますので、直感的に操作できるでしょう。
予約料は、有料にしている診療所と無料にしている診療所があります。
遠患者は、予約した日時の5分ほど前にスマホを持って診療所の医師から連絡が来るのを待ちます。
時間になるとテレビ電話が開始し、患者のスマホ画面には診療所の医師が現れます。医師側はパソコンを使っていて、医師のパソコンには患者の顔が見えています。
医師の質問に患者が答えたり、患者に相談ごとがあれば医師がそれに答えます。
この場面が一般的な対面診療における「再診」にあたります。
医師が再診を必要とするのは、患者の様子を確認し、「この患者は継続して糖尿病の薬を飲まなければならない」ことを判断するためです。
再診を行うことで、医師は医療機関でしか出すことができない薬の処方せんを患者に出すことができるのです。
治療費の支払いはクレジットカードになります。
クレジットカードの登録は、一般的なオンライン診療アプリ(遠隔診療アプリ)では、インストール後のアカウント登録時に、クレジットカード情報の登録を求められる場合が多いです。
初診時に診療所のスタッフに詳細を聞いておいたほうが良いかもしれません。
診療所での対面診療の場合、診療所から処方せんを受け取った患者は、通常、近くの調剤薬局に行って薬を買わなければなりませんでした。
しかしオンライン診療(遠隔診療)の場合、診療所が薬を患者宅に宅配便で送ってくれます。
再診料の支払いのときに薬代も上乗せして支払います。
糖尿病の薬は、1度の再診で1~2カ月分が処方されます。よって、処方された薬が切れる前に、またオンライン診療(遠隔診療)を受けて薬の処方を受ける必要があります。
オンライン診療(遠隔診療)の場合は、診察後、薬が自宅に届くまでに数日を要しますので、少し余裕を持ってオンライン診療(遠隔診療)の再診を受けるように心がけましょう。
診療所によっては、長期間に渡ってオンライン診療(遠隔診療)だけの再診は行わず、数回に一度は診療所に直接来ることを患者に求めてるところもあります。
なぜオンライン診療(遠隔診療)に慣れてきた患者を診療所に呼ぶのかというと、薬の効果を確かめるために必要な検査を行ったり、「対面診療でなければ診られない症状」を確認したりするためです。
オンライン診療(遠隔診療)による糖尿病治療を行っている診療所の医師たちは、どのような「思い」があるのでしょうか。診療所のホームページにつづられた「オンライン診療(遠隔診療)への思い」を見ていきましょう。
福岡県春日市のAクリニックの院長は、自院のホームページに「生活習慣病の治療は立ち止まらないことが大事」と訴えています。
Aクリニックでは、オンライン診療(遠隔診療)の糖尿病患者として、出張で全国を飛び回っているビジネスパーソンを想定しています。
Aクリニックが考えるオンライン診療(遠隔診療)に向いている糖尿病患者は、
Aクリニックの院長は、糖尿病の治療の継続には「強靭な意志力は不要」と言います。
必要なのは、少しの工夫と習慣化です。この2つさえあれば糖尿病と向き合い続けることができる、と断言しています。
オンライン診療(遠隔診療)によって、少しの工夫と習慣化が可能になるというわけです。
神奈川県平塚市のBクリニックの院長の、オンライン診療(遠隔診療)による糖尿病治療のコンセプトは「日常生活のマネジメント」です。
Bクリニックでもオンライン診療(遠隔診療)による糖尿病治療の患者として、忙しいサラリーパーソンを想定しています。Bクリニックでは、仕事の忙しさで通院が億劫になり、通院を辞めてしまう患者が多いそうです。
日常生活のマネジメントと糖尿病の治療はとても深い関係にあります。日常生活のマネジメントが苦手な人は、糖尿病を引き起こしやすいのです。
そして糖尿病の治療がスタートしてからも、日常生活のマネジメントを適切に行わないと、せっかくの治療も効果が出ません。
日常生活の送り方はとても大切なので、この後で詳しく解説します。
そこでBクリニックでは、オンライン診療(遠隔診療)を活用して日常生活や糖尿病のマネジメントのお手伝いをしよう、と考えたのです。
オンライン診療(遠隔診療)における糖尿病治療は以上見てきた通りです。
それでは次に、オンライン診療(遠隔診療)の便利さを実感するために、通常の対面診療での糖尿病治療の様子を確認しておきましょう。
通常の対面診療の様子を確認することで、
「なぜオンライン診療(遠隔診療)は糖尿病治療の初診に向かないのか」
「なぜオンライン診療(遠隔診療)でも、たまに診療所に通う必要があるのか」
が見えてきます。
通常の糖尿病治療は、健康診断で血糖値が高いことが分かって始めることが多いでしょう。
糖尿病はよほど悪化しても合併症が出ない限り自覚症状は出ません。そのため糖尿病治療では、異変や体調不良をきっかけとして医者にかかることはまれといえます。
ほとんどのクリニックでは、糖尿病疑いの患者には予約を求めていません。患者は、血糖値が書かれた健診結果の用紙と保険証を持参して、内科クリニックに行き受け付けをします。
受け付けでは「健診で血糖値に異常が出ました」と伝えるだけで大丈夫です。
受け付けを済ませると、問診表を渡されるので記載します。
その後、看護師による聞き取り形式の問診があります。体重測定を行うこともあります。
看護師の問診が終わると、そのまま血液検査の採血と尿検査の採尿を行います。
糖尿病における検査は多岐にわたり、しかもそれぞれとても重要なので、別の章で解説します。
糖尿病の治療はバリエーションがたくさんあるので、医師の「見立て」がとても重要になります。
それで医師は、初診時の診察や血液検査が出た後の2回目の診察など、治療開始当初は特に力を入れます。
例えば、糖尿病と診断されてもまだ初期段階であれば、薬を使わないこともあります。食生活の改善し、日頃の運動不足を解消することで、症状が悪化しないことがあるからです。
糖尿病の治療には、食事療法、運動療法、薬物療法の3つがあります。
軽症の場合は、食事療法と運動療法のみを行い、進行すると3つすべて同時並行で行います。
薬物療法が始まっても、食事の管理と運動は継続する必要があります。
食事療法ではまず、患者は現行の食生活について詳しく尋ねられます。そのうえで、健康に良くない食習慣の中止と、望ましい食事方法が指導されます。
クリニックによっては医師ではなく看護師や管理栄養士が食事指導を行います。
食事療法で重要なのはカロリー制限です。糖尿病の患者はカロリーオーバーしていることが多いので、最低限必要なカロリーのみを摂取するよう指導されます。
人が最低限必要な1日分のカロリーは、次のように計算します。
例えば、身長170cmのデスクワークが多い人は、1,590~1,907キロカロリーとなります。計算式は次の通りです。
・1.7×1.7×22×(25~30)
カロリー摂取量を制限したうえで、次の点に注意する必要があります。
糖尿病患者に運動が必要なのは、筋肉への血流を増やさなければならないからです。
筋肉にたくさんの血液が届くと、血液内のブドウ糖が消費され、血糖値が下がります。筋肉が増えるとインスリンの効果が高まり、これも血糖値を下げます。
インスリンはブドウ糖を細胞内に取り込むことを促進するので、インスリンが「元気」になると、血糖値が下がるのです。
糖尿病患者が行う運動は、有酸素運動と筋力トレーニングです。
運動メニューは糖尿病の程度や年齢、これまでの運動歴によって異なりますが、例えば次のようなメニューがあります。
それまで運動をしていなかった人が急に過度な運動を始めると、関節を傷めたり転倒したりして、別の健康被害を引き起こすことになりかねません。 糖尿病患者の運動量は、医師の指示の範囲内にとどめておいたほうが無難です。
糖尿病で使う薬は、主に次の4つに分かれます。
糖尿病を治療する医師は、検査結果、患者の様子、年齢や仕事内容などから薬を選択します。
さらに病気の進行や治り具合によって薬を変えていきます。
インスリンを直接体内に補充する薬はインスリン注射薬療法といい、患者が自分で注射をすることになります。これは患者の負担がとても大きい治療法なので、糖尿病の初期の治療では「インスリン注射にならないこと」が目標になります。
糖尿病の検査について、別途解説します。
医師は、さまざまな糖尿病治療のメニューの中からその患者に適した治療を提供しなければなりません。
そのため糖尿病の検査は多岐にわたります。
血液検査で分かる内容は次の通りです。
血糖値 | 血液中のブドウ糖の量 | 朝食前空腹時で 正常値110mg/dL未満 |
---|---|---|
ヘモグロビンA1c (HbA1c) |
ヘモグロビンは全身に酸素を行き渡らせる血液中の成分。ヘモグロビンA1cは、ブドウ糖と結合したヘモグロビン。 | 正常値6.0~6.4% |
血中尿素窒素 (BUN) |
尿素窒素は老廃物。本来は腎臓でろ過されるもの。 | 正常値は20mg/dL以下 |
尿検査で分かる内容は次の通りです。
タンパクとアルブミン | 糖尿病が進行しているとタンパクが検出される。糖尿病の初期では、タンパクは検出されないものの、アルブミンが検出されることがある。アルブミンはタンパクの一種。 |
---|
多くのクリニックは成分検査を外注に出していることから、これらの検査結果は1週間ほどかかります。ただ、検査体制を整えているクリニックでは結果が即日分かることもあります。
採血と採尿の後、医師による診察が行われ、その段階で糖尿病と診断されると、頸動脈エコー検査と眼底検査という、追加の検査が行われることがあります。
糖尿病は、その後に発症する合併症がとても恐いので、糖尿病がどの程度進行しているか調べる必要があるからです。糖尿病の進行度によって、治療方針が変わってきます。
頸動脈エコー検査は、頸動脈という首の太い血管の内部を、超音波(エコー)を使って「見る」検査です。血管の壁が厚くなっていると、糖尿病の合併症である動脈硬化が疑われます。
糖尿病が進行すると失明することがあります。そこで糖尿病が疑われると、目の中の網膜を調べる眼底検査が行うことがあります。
頸動脈エコーも眼底検査もオンライン診療(遠隔診療)ではできないので、対面診療を受けることになります。
従来型の対面診療による糖尿病治療の大変さをご理解いただけたと思います。
「通院が面倒だからオンライン診療(遠隔診療)がよい」という面も確かに大きいのですが、糖尿病治療の場合では「治療内容が複雑のなので、少しでも受診の負担を軽減するために遠隔診療(オンライン診療)を使う」という考え方が成立します。
必ず対面診療が必要な時以外や検査時以外の受診においてはオンライン診療(遠隔診療)で治療する、という方法は理にかなっていると印象を受けます。
オンライン診療(遠隔診療)がさらに広がり、世間に周知されるものになれば、糖尿病治療を途中で諦める患者が少なくなるのではないでしょうか。
2018年10月12日
「日本の医療はもっとIT化したほうがよい」と言ったら、驚く人がいるのではないでしょうか。 「日本の医療は世界最高水準だから、十分IT化されているはずだ」と思った方は、考えをあらためたほうがよ...
詳しく見る >
2019年5月22日
患者がスマートフォンで医師の診察を受けることができるオンライン診療は、まさに「未来の医療が実現した」といえるでしょう。 しかしオンライン診療は、すべての患者が使えるわけではありません。 ある病...
詳しく見る >
2019年2月25日
医療について考えたり提案したりすることは、医療の素人でもできます。 なぜなら医療の素人が病気を発症すれば、患者として医療にかかわるからです。 したがって、医療の素人である一般国民こそ、医療...
詳しく見る >
2017年10月13日
厚生労働省はこれまで、医療機関がオンライン診療(遠隔診療)を行う場合、「初診だけは直接の対面診療をしなければならない」という立場を貫いてきました。 ところが同省は201...
詳しく見る >
2018年12月17日
オンライン診療(遠隔診療)は2018年4月に、医療保険が使える範囲が格段に広がりました。 オンライン診療を受診できる医療機関は、読売新聞の2018年5月の報道によると1,700医療機関まで拡...
詳しく見る >
2018年8月9日
オンライン診療(遠隔診療)は、遠くにいる患者と医師を結ぶ画期的な医療です。 こんなに素晴らしい医療をつくることができたのは、インターネットのおかげです。 そのインター...
詳しく見る >