Telemedicine Report
記事リリース日:2018年5月18日 / 最終更新日:2019年1月21日
※本記事はシリーズとなっておりますので前記事からの閲覧をおすすめ致します。
前記事『【2018年版 動き出すオンライン診療1】新制度はこうなる』はこちらからご覧ください。
医療保険を使ったオンライン診療が2018年4月から拡大されました。医療保険を使うことができれば患者の治療費負担が減るため、オンライン診療はさらに普及しそうです。
しかし心配もあります。新オンライン診療制度の中身を見ると、一般の人がイメージしていた「気軽に受診できる便利な医療」とはかけ離れたものになっているからです。例えばオンライン診療は初診から6カ月以上経過しないと実施できないのです。
またオンライン診療を行う医師のほうも「計画書」をつくらなければならず手間が増えそうです。
新しい医療をトラブルなく軌道に乗せるには、多少の「窮屈なルール」は仕方がないのでしょうか。
目次
ある医療ニュースサイトが2018年3月、オンライン診療について厚生労働省の課長にインタビューしています。
このサイトの編集長が、今回の新オンライン診療制度は要件が厳しすぎるのではないかと質問したところ、厚生労働省の課長は次のように回答しました。
つまり、厚生労働省にも窮屈なルールであるという自覚はある(A)ものの、オンライン診療は未熟なのである程度の縛りは仕方がない(B、C)という考え方のようです。
医師が医療保険を使ったオンライン診療を行うには、最低でも次の3つのルールをクリアしなければなりません。
【6カ月後からルール】初診から6カ月以上経過しないとオンライン診療を開始できない
【連続2カ月までルール】オンライン診療は連続2カ月しか行えない(3カ月連続はNG。1カ月開ければオンライン診療を再開できるが、対面診療の間隔が3カ月超空いてはならない)
【同じ医師ルール】オンライン診療は初診(対面診療)を担当した医師が行わなければならない
【連続2カ月までルール】が少し複雑なので、NG例とOK例を表で説明します。これはすでに初診から6カ月以上が経過している場合です。
NG1の例は3カ月連続でオンライン診療を受けているので認められません。OK1かOK2のように対面診療をどこかで受けなければなりません。
NG2の例では、オンライン診療は3カ月連続ではないのですが、4月1日~7月1日までの「3カ月+1日=3カ月超」の間に1回も対面診療が行われていないので認められません。5月1日に受診をしない場合、OK3のように6月1日に対面診療を受けないと7月1日のオンライン診療が認められなくなります。
さらに【連続2カ月までルール】はオンライン診療の魅力を薄めることになりかねません。
糖尿病や脂質異常症などが軽症で症状が安定している場合、クリニックの医師は患者に2カ月分の薬を処方します。対面診療のみを選択した場合は下の表の通り、例えば4月1日に受診すれば、次回の受診は6月1日でいいわけです。
軽症で安定している生活習慣病こそオンライン診療が向いていると考えられますが、このケースではあまりオンライン診療の恩恵を受けられません。
患者の症状が安定していて、4月1日にオンライン診療を受けて2カ月分の薬を処方してもらえば、5月は受診しなくても大丈夫です。しかし6月1日の受診でオンライン診療を受け、しかも7月の受診を休んでしまうと、「3カ月超対面診療を受けない」ことが確定してしまうので、6月1日は対面診療を受けなければならなくなるのです。
軽症の糖尿病を持つサラリーパーソンは「薬をもらうだけなので、オンライン診療だけで済ますことができれば楽なのに」と感じるのではないでしょうか。
新オンライン診療制度では、初診は必ず医師と患者が面談する対面診療でなければなりません。
厚生労働省は2017年に、保険者が実施する自由診療の禁煙外来に限っては、初診から最後の診療まですべてオンライン診療でもかまわない、との方針を示しました。そのため今回の新オンライン診療制度は「後退」した印象を持つ人がいるかもしれません。
オンライン診療は初診(対面診療)を担当した医師が行わなければならないというルールも、柔軟性が低い内容といえそうです。
例えば、ITが苦手な高齢の院長と、ITが得意な若い副院長の2名体制のクリニックがあった場合、若い副院長がオンライン診療に専念するという分業制を敷くことができないのです。院長の患者がオンライン診療を希望したら、院長がオンライン診療を行わなければならないのです。もしくは若い副院長がまずは6カ月間対面診療で診てからでないと、副院長によるオンライン診療を始めることはできないのです。
先ほどの厚生労働省の課長は上記のようなシチュエーションも想定していて、次のように回答しています。
課長のこの回答は、「6カ月後からルール」「連続2カ月までルール」「同じ医師ルール」をつくった意図を説明しています。
医師が医療保険を使ったオンライン診療を行うと、1回700円の診療報酬を得ることができます。患者負担はこの3割の210円です。
ところが、医師が対面診療で再診を行うと、1回720円の診療報酬を得ることができるのです。この再診は、対面診療で行っても電話で行っても720円です。
つまり、スマホやパソコンやテレビ電話やインターネットといった最新のIT機器を使ったオンライン診療料(700円)のほうが、電話のみを使った再診料(720円)より20円安いのです。オンライン診療のほうが電話再診よりはるかに多くの患者情報が得られるにも関わらず、です。
オンライン診療を行うには、医師はパソコンやインターネット環境を準備したり、スマホアプリを提供する企業と提携したりする必要があります。
厚生労働省はオンライン診療を行う医師に対し、情報漏洩が生じないセキュリティ対策を講じるよう指導しています。その内容は次の通りで、かなり厳しいものとなっています。
このような厳しさは、個人情報の中でも特に重要な病気情報をネットでやり取りするため、当然ではあります。
しかし医師や医療機関の経済的な負担は増すはずです。
クリニックの医師が高血圧や糖尿病の患者を外来で定期的に診るとき「治療計画」を作成しなければなりません。
そして高血圧や糖尿病などの患者にオンライン診療を実施するときは、医師はさらに「療養計画」を作成しなければなりません。
つまりオンライン診療を実施する場合、医師は1人の患者に2つの計画をつくらなければならないということです。
もちろん治療計画と療養計画の内容はほとんど重複するので「2倍の手間」よりは小さな手間で済むでしょう。しかしデータとしては2枚の計画書を残しておかなければならないのです。
厚生労働省の意図は、オンライン診療が急拡大することで現場が混乱することを回避したい、ということなのでしょう。
ただ厚生労働省は、決して消極的だったり後ろ向きだったりしているわけではないようです。厚生労働省の課長も、「オンライン診療の活用は今後さらに検討が進む」と述べています。
参考資料:オンライン診療の推進(厚生労働省)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/miraitoshikaigi/suishinkaigo2018/health/dai4/siryou1.pdf
※本記事はシリーズとなっており、続きの記事がございます。
次記事『【2018年版 動き出すオンライン診療3】在宅のお看取りで医師の負担が大幅減少』はこちらからご覧ください。
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