Telemedicine Report
記事リリース日:2018年6月13日 / 最終更新日:2019年1月21日
一般の人が、医療や病気についてインターネットなどで調べていくと、「学会」という単語と出会うと思います。
もしくは「学会が言っているのだから、間違いなさそうだ」と思ったことがあるでしょう。
一般人だけではありません、医師たちも「学会が出している指針には従わなければならない」と判断したり、「学会が認めていないのだから正しいとは言えない」と考えたりします。
そして遠隔診療(オンライン診療とも呼ばれています)の分野にも「一般社団法人 日本遠隔医療学会」という学会があります。
目次
ある医療分野に学会が存在するということは、その医療分野が「ほかの医療分野ではくくれない専門性を有する」という証明になります。
例えば胃や腸、肝臓などの「消化器」という臓器にかかわる学会は、
などがあり、そしてこれらを統合する
も存在します。
なぜ「消化器」という臓器についてこれだけの学会が存在するかというと、例えば「消化器内視鏡」の医療を行っている医師と、「消化器外科」の医療に携わっている医師では、行っている医療や関心事がまるで異なるからです。
それならば、別の学会をつくって関心がある医師たちだけで集まって研究発表しましょう、となるわけです。
ただ消化器系の医師の中には、内視鏡のことも外科のことも知りたいという人もいて、そのような医師は日本消化器内視鏡学会と日本消化器外科学会の両方に登録することができます。
つまり「一般社団法人 日本遠隔医療学会」は、遠隔診療を含む遠隔医療が他のどの医療分野とも異なる性質を持ち独自の医療を展開し始めたため、遠隔医療にかかわる医師たちが「自分たちだけの研究エリアをつくろう」と立ち上げたのです。
2005年4月に設立されました。
遠隔診療分野の学会名は「遠隔診療」ではなく「遠隔医療」となっています。医療はより広い意味であり、診療は医療の一部です。医療の中には診療のほか、基礎研究や保健、予防なども含まれます。
学会は団体名であると同時に、研究発表の場でもあります。
その分野の医師や研究者たちが1年から数年に1度、特定の地域に集まってこれまでの研究結果や実績を発表する場です。
学会では、ある病気や治療法について討論することもあります。
学会で発表することは医師たちにとって名誉あることですが、特段何も発表しなくても学会員である医師ならば参加できます。学会では最新医療を学ぶことができます。
学会は医療分野だけでなく、建築や法律、経済などあらゆる学問分野に存在します。
日本遠隔医療学会の内容を紹介する前に、名称の頭に付いている「一般社団法人」について説明します。
世の中で最もよく知られている法人は株式会社ではないでしょうか。私立学校を運営する学校法人も法人です。
法人とは、人ではないのに法律上の「人格」を与えられた団体です。人に権利と義務が生じるように、法人にも権利と義務が生じます。
一般社団法人も、法人のひとつです。
一般社団法人と聞くと、どことなく「お役所的」でなんとなく「権威のある集団」というイメージを持つのではないでしょうか。
しかし実は、一般社団法人を設立するのは、株式会社を立ち上げるより簡単です。法務省は一般社団法人を設立するルールとして、次の5つを定めているだけです。
これだけです。
「定款(ていかん)」は耳慣れない単語かもしれませんが、要するに「この一般社団法人はこのような団体です」ということを書いた文章です。
一方、株式会社を設立するときは、出資金も必要ですし取締役も決めておく必要があります。
ですので一般社団法人というだけでは、権威のある団体かどうかは分かりません。
それでもなぜ、医学系の一般社団法人である学会は、権威があるのでしょうか。それは医学系の学会が、日本の医学界の権威たちによって設立されているからです。
日本遠隔医療学会は2017年に定時総会を開き、新しい役員を決めました。専務理事以上のメンバーは以下の通りです。
名誉会長 | 原量宏 | 東大医学部卒、香川大学附属病院医療情報部教授など歴任、香川大学名誉教授 |
---|---|---|
名誉理事 | 酒巻哲夫 | 群馬大学医学部附属病院医療情報部教授などを歴任、高崎市医師会看護専門学校副校長、群馬大学名誉教授 |
名誉理事 | 吉田晃敏 | 旭川医科大学学長 |
会長・代表理事 | 近藤博史 | 鳥取大学医学部附属病院医療情報部部長・教授 |
副会長・理事 | 森田浩之 | 岐阜大学大学院医学系研究科総合病態内科学分野教授 |
専務理事・事務局長 | 東福寺幾夫 | 新潟大学工学部卒、オリンパス株式会社などを経て高崎健康福祉大学大学院研究福祉学研究科教授 |
現役の教授や現役の国立医大学長が名を連ねています。各分野、各地域の権威たちが、遠隔診療と遠隔医療を日本の医療に根付かせるべきであると考えているということです。
そして特筆すべきは、専務理事の東福寺幾夫氏です。東福寺氏はオリンパス出身で、オリンパスと言えばカメラで有名ですが、医療機器分野にも強く、消化器内視鏡で世界シェア1位にもなっている企業の出身です。
オリンパスだけではありません。
役員ではありませんが、日本遠隔医療学会の内部組織である委員会の委員には、パナソニックヘルスケア株式会社や株式会社NTTデータ経営研究所の社員が加わっています。
パナソニックヘルスケアは、親会社の家電大手パナソニックの流れを汲んだ医療機器メーカーです。バイオ研究や再生医療に使う細菌などの培養機器や、薬局が導入している薬の自動包装機などを製造しています。
NTTデータ経営研究所もその名の通り、IT大手のNTTデータの子会社で、企業のIT戦略を支援したり、システムをつくったりしています。
遠隔診療は、診療の効果が医療機器に大きく左右される分野です。例えば人工透析医療も透析装置がなければ血液浄化ができないので、医療機器に左右される医療といえます。
遠隔診療の場合は医療機器だけではなく、インターネットと接続しなければ何も始まらない医療です。
こうしたことから、医療機器メーカーやIT企業やネット企業には、遠隔診療は将来性が高いビジネスに映ります。それで企業は社員を日本遠隔医療学会に派遣しているのでしょう。
では日本遠隔医療学会は何をしているかというと、残念ながらホームページには2012年度の活動報告しか掲載されていませんでした。
その2012年活動報告によると、日本遠隔医療学会雑誌を2回発行しています。いわゆる「学会誌」と呼ばれるもので、医師や研究者たちが研究した結果をまとめた論文を掲載します。内容が専門的すぎて一般の書店では販売されていませんが、学会によっては有料で学会誌を発売しています。
論文というのは医師たちにとってとても重要な意味を持ち、「学会誌に掲載された論文の本数」は学位や地位に直結します。ですので、学会誌を発行することは学会にとって大切な事業なのです。
2012年度はさらに学会学術大会を神戸市で開催しています。学会学術大会は単に「学会」と呼ばれることもあります。
学会学術大会には、学会の役員や委員だけではなく、一般の学会員も参加します。
一般の学会員のほとんどは医師です。例えば遠隔診療を自分のクリニックで行っている院長が、日本遠隔医療学会に年会費8,000円を支払うと一般学会員に登録され、学会学術大会に参加できます。
日本遠隔医療学会は2012年にNPO法人日本遠隔医療協会を設立しました。
実は学会よりもこちらのほうが積極的に遠隔診療の普及に取り組んでいます。
日本遠隔医療学会の事業は学会誌の発行や学会学術大会の開催がメインですが、日本遠隔医療協会は「遠隔医療の普及」「実務者の教育」「行政への対応」「遠隔診療のコンサルテーション」「調査研究」を行っています。
日本遠隔医療協会では、医師向けに遠隔診療の研修を行ったり、特定地域に遠隔診療を導入するときの調査を行ったりしています。
協会のほうが、より現実的に遠隔診療拡大のために動いているという印象です。学会が「権威」を担い、協会は「実働部隊」といった関係です。
また協会の事業の中に「遠隔医療に関する政策立案のための調査」もあります。遠隔診療はまだ厚生労働省が全面解禁に慎重だったり、遠隔診療の拡大に懸念を示す医師も少なくなかったりしますので、そのため遠隔診療の関係者自らが「政策」を打ち立てて、行政などにアピールするのです。
日本遠隔医療協会には、株式会社メドレーやポート株式会社、MRT株式会社など、遠隔診療サービスをすでにビジネス化している企業も積極的に参加しています。
学会は任意の団体です。任意の団体とは、法律で「その団体を設立しなければならない」と定められた団体ではない、ということです。
しかし日本の社会において、学会はとても重要な役割を果たしています。医学に限らず、様々な学問分野が学会をつくり、その分野の「頭脳」たちが集まり日本の科学を発展させています。学会が決めたことや学会が発表する声明に、政府が一目置くのはそのためです。学会には政策を変える力もあります。
ですので、遠隔診療の学会である日本遠隔医療学会は、日本の遠隔診療にとって欠かせない存在といえます。
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