Telemedicine Report
記事リリース日:2018年7月20日 / 最終更新日:2019年1月21日
スマートフォン、スマートハウス、スマートカー。
製品の前につくスマートは、「IT化された」という意味になります。
そしてとうとう、名古屋にスマート病院が誕生しました。
どのようなIT病院なのか、とても気になるでしょう。
さらにMY病院(私の病院)というコンセプトを打ち出した医療機関が、石川県能登半島にあります。こちらも大いに注目されています。
スマート病院とMY病院には、IT機器をふんだんに盛り込んでいるという共通点があります。いずれも良い病院づくりにITを使っています。
遠隔診療はITというテクノロジーの発展によって実現した「未来の医療が現実のものになった」医療です。そこでシリーズ「テクノロジーが医療を変える」では、医療現場がテクノロジーによって様変わりする様子を追っていきます。
名古屋大学医学部附属病院は2018年2月から、スマートホスピタル(スマート病院)構想を本格的にスタートさせました。技術支援したのはサトーヘルスケア株式会社(東京都港区)という会社です。
医療におけるIT技術は未知の部分が多く、これまでは、新しいことにいち早く取り組んで他院との差別化を図ろうとする民間病院やクリニックが積極的に導入する傾向がありました。
ところが名古屋大学病院は保守的なイメージがある国立大病院ですので、スマート病院構想には意外な印象を受ける方もいるでしょう。
実は名古屋大病院は病院内に薬搬送ロボットを走らせるなど、新しいことに挑戦する名門病院なのです。
名古屋大学病院にはメディカルITセンターというIT化を進める専門の部署もあります。
大規模総合病院のIT化というと電子カルテがすぐに思い浮かびますが、名古屋大学病院は電子カルテにとどまらず、患者の病歴管理や外部機関との連携にITを活用してきました。
このようなIT気質があったからこそ、スマート病院へと変貌を遂げたのでしょう。
名古屋大学病院のスマート病院構想は、医療従事者のIT化と患者のIT化が2本柱になっています。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
名古屋大学病院では、看護師など医療従事者のIT化に取り組んでいます。
名古屋大学病院では、病棟の看護師に電気信号を送信する小型端末を身につけてもらい、病室のすべてのベッドなどに受信機を取り付けました。
これにより、看護師が病棟内を走り回っている様子や患者とのコミュニケーションの量、本来業務以外の仕事に取られている時間などをデータとして集めることができます。
これらのデータを分析することで、
などが可能になります。
つまり、無駄が減り効率化でき生産性が上がるため、労働量を減らしつつ医療の質を向上させることが期待できるのです。
名古屋大学病院のスマート病院構想は、患者もIT化します。
患者にはバイタルモニタービーコンという、腕時計型のIT機器を装着してもらいます。患者の脈拍数、呼吸数、活動量、ストレスレベルといったバイタル情報を、いつでも自動で測定できるのです。
バイタルモニタービーコンには、患者が急変したり転倒したりした場合、看護師に自動で知らせる機能も搭載しています。
患者のIT化により、看護師のバイタル計測の時間が節約できます。さらに自動でバイタル情報を集計するので、看護師による計測データの転記ミスなどがなくなり、より正確な情報を得ることができるのです。
名古屋大学病院は、IT医療の普及にも取り組みます。安全性・利便性・効率性が高くなることが立証され、他院でも導入が可能なIT医療については、積極的に提供していく方針です。
名古屋がIT医療の先進地になるかもしれません。
石川県七尾市の恵寿総合病院の神野正博理事長(消化器外科医)は「どこでもMY病院」構想を打ち出しました。
七尾市民が、市内のすべての医療機関、介護施設、調剤薬局を「かかりつけ」にできるコンセプトです。地方は社会資源が不足しがちなので効率的に使う狙いがあります。
例えばある高齢患者がクリニックを受診したところ、大きな病気の疑いが見つかったため総合病院に入院し、退院後に介護施設に入ったとします。
現行では、この3つの医療機関・介護施設はこの患者に関する情報を独自に調べて保管しておかなければなりません。
患者側も、3つの医療機関・介護施設から同じことを聞かれるのでわずらわしいでしょう。
神野理事長は、病院が患者に患者のカルテを渡してしまえば3つの医療機関・介護施設は同じ情報を共有できるので、いちいち患者情報を調べる必要がなくなる、と考えたのです。
患者が自分のカルテを持ち運べるようになると、どこの医療機関もどこの介護施設も「MY病院(介護施設)」になるというわけです。
MY病院構想の肝は患者がカルテを持つことです。これを実現したのが、スマホを活用したサービス「カルテコ」です。
カルテコは、メディカル・データ・ビジョン株式会社(東京都千代田区)という会社が開発しました。カルテコの導入は、恵寿総合病院が全国で3番目でした。
患者はカルテコを使えば、いつでも恵寿総合病院が保管している自分のカルテを閲覧することができます。恵寿総合病院ではスマホを持っていない人のために院内に専用のコンピューター端末を設置して、患者がそこからカルテ情報を印刷できるようにしました。
スマホで閲覧できるカルテ情報は、
となっています。
カルテコがあれば、患者はスマホを持ってほかの病院・クリニックに行き、医師に自分のカルテを見せることができます。調剤薬局の薬剤師に相談することもできます。
神野理事長は、患者が自分のカルテを持ち運ぶカルテコ方式が拡大すれば、患者自身に「自分のことは自分で管理する」という覚悟が生まれるだろうと考えています。
患者に覚悟が芽生えれば、早期治療や病気予防に取り組むようになり、健康の増進と医療費の削減が実現できます。
名古屋大学病院のスマート病院も、能登半島のMY病院も、IT企業の支援がなければ実現できなかったでしょう。
病院はIT化で医療の質を向上させ、IT企業はビジネスを拡大できるので、両者はWin=Winの関係にあるといえます。
名古屋大病院がタッグを組んだサトーヘルスケア株式会社は、物流の自動化や自動認識のサトーグループの医療ビジネス部門という位置づけです。
物流現場では、無数の商品群の位置の把握や、倉庫作業員の効率的な働き方などが課題になります。よってサトーヘルスケアは、看護師や患者の位置を把握したり、効率的な働き方を提案したりするのが得意なのです。
恵寿総合病院にカルテコを提供したメディカル・データ・ビジョン株式会社は医療機関にITサービスを提供している会社です。
現在では日本最大級の診療データベースを保有し、薬剤情報の分析や病院経営支援なども行っています。
スマート病院とMY病院が目指す医療は、医療に詳しくない一般の患者や国民でも「そうあってほしい」と感じます。
日本にはこれだけ多くのIT技術が存在するので、病院側が「取り入れよう」と思えば医療はいくらでもIT化することができるでしょう。「すごい」が「当たり前」になっている日はそれほど遠くないかもしれません。
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