Telemedicine Report
記事リリース日:2018年8月9日 / 最終更新日:2019年1月21日
オンライン診療(遠隔診療)は、遠くにいる患者と医師を結ぶ画期的な医療です。
こんなに素晴らしい医療をつくることができたのは、インターネットのおかげです。
そのインターネットが、医療をさらに進化させようとしています。
東京大学と厚生労働省が、日本中の健康情報をインターネットで集めて、病気の予防と医療費の削減を進めようとしています。
「情報を集めて分析するだけなのに、なにがすごいの?」と感じたかもしれませんが、そうではありません。
これは世界に類を見ない壮大なプロジェクトなのです。
目次
なぜこの東大のプロジェクトが凄いのかというと、「病気の予防と医療費の削減」に立ち向かっているからです。
最新のがん治療やロボットによる手術といったニュースは派手に報道されるのですが、病気の予防や医療費についてはマスコミも国民もあまり関心を示しません。
そのため、病気予防と医療費は「重大なこと」と思われていないようです。
しかし本当は、病気の治療より病気の予防ほうが人々を幸せにします。病気を予防すれば病気にならないのですから当然です。
また医療費を削減すると、国民の税金をより良い暮らしづくりのために使えるので、これもまた国民の幸せにつながるのです。
2015年度の国民の医療費は42兆3,644億円で、前年度より1兆5,573億円、3.8%増えました。
日本の国家予算は大体年200兆円ですので、医療費は国家予算の2割に相当するわけです。
他国の国家予算を見てみると、オーストラリアが年40兆円、スイスやノルウェーが年20兆円です。
日本の医療費だけで、オーストラリアの国家予算がまかなえるというわけです。
42兆3,644円がどれだけ大きな数字であるかご理解いただけると思います。
そして政府関係者が「医療費が日本の財政を破綻させかねない」と悲鳴をあげているのもお分かりいただけるでしょう。
病気を予防できると、医療を受ける人が減るので医療費は減ります。
病気の予防は、国家財政をも救うのです。
東大に政策ビジョン研究センターという組織があるのですが、ここが厚生労働省から補助金をもらって、インターネット上にサイトを開きました。
サイト名は「データヘルス・ポータルサイト」といいます。
ネット上にサイトを開くと、さまざまな人や組織がお互いにつながることができます。
オンライン診療(遠隔診療)でも、ネットが患者と医師をつないでいます。とにかくネットは人々をつなげるのが得意なのです。
では、このデータヘルス・ポータルサイトが何と何をつなぐのかというと、東大と公的医療保険の運営団体をつなぎます。
公的医療保険の運営団体には、大企業が自社で運営する健康保険組合や、中小企業の社員が加入する協会けんぽがあります。
健康保険組合と協会けんぽには、計約7万人が加入しています。
では、データヘルス・ポータルサイトを通じて手に入れた約7万人の健康情報を使って、東大は何をするというのでしょうか。
東大が集める情報は次の通りです。
個人情報については東大には流れません。
東大がこれらの膨大なデータを「分析」します。
これだけのデータが集まると、「ある病気の発生を防ぐには、こういう取り組みをすればいいのではないか」という、病気予防対策を打ち出すことができます。
また「医療費を効率的に削減するには、この病気の予防から手をつけたほうがいいのではないか」という方針を立てることもできます。
病気予防対策も、医療費削減効果がある病気の分析も、大量のデータを集めて初めて行うことができるのです。
東大が分析した結果は、健康保険組合や協会けんぽも使うことができます。
健康保険組合や協会けんぽは、東大から受け取る健康情報の分析結果を元に、従業員たちに健康指導をするわけです。従業員の体調不良や仕事の能率低下を未然に防ぐことができます。
従業員たちが元気に働けば日本経済が活性化されるので、これも国民を幸せにします。
佐川急便などでつくる「SGホールディングスグループ健康保険組合」が、早速この「データヘルス・ポータルサイト」に参加しています。
その結果、「歯科の医療費が高いと思っていたら、それよりも高血圧の治療のほうが急増していた」ことが分かったそうです。
先ほど、データヘルス・ポータルサイトは「健康保険組合と協会けんぽを合わせて計約7万人分のデータを集める」と解説したのですが、これに自営業者たちが加入する市町村国民健康保険も加わる方向で進んでいて、そうなると総数は約10万人になります。
これだけの規模の「医療分野での社会実験」を行うのは、世界初です。
しかし厚生労働省はもっと大きな構想を持っています。
それは約1億3,000万人の全国民の医療と介護のデータを集約する「保健医療プラットフォーム」を2020年度までに構築するというものです。
つまり10万人規模の今回の東大の「データヘルス・ポータルサイト」は、1億3,000万人規模の「保健医療プラットフォーム」事業のジャンプ台になるというわけです。
日本の最高の英知が集まる東大と、日本人の保健を担う厚生労働省がタッグを組むわけですから、国の本気度が分かります。
膨大なデータのことをビックデータといい、ビックデータは人々の暮らしを劇的に変えると言われています。
「医療先進国ニッポン」が「病気になりにくい国ニッポン」へと劇的に変わることを期待します。
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