Telemedicine Report
記事リリース日:2017年10月10日 / 最終更新日:2019年1月18日
国はいつも、新しい医療の登場に慎重です。過剰反応では?と思わせる対応をすることすらあります。
オンライン診療(遠隔診療)もそのひとつで、厚生労働省は当初、あまり乗り気ではありませんでした。
しかし、ITの発達により、先進的な医師や国民の間に、オンライン診療はより良い医療なのではないかという期待が膨らみ、厚生労働省としてもオンライン診療を容認する方向に傾きました。
するとオンライン診療を待ち望んでいた医師や医療機関は、厚生労働省がオンライン診療を解禁したと喜びましたが、しかし実態は「完全解禁」とは言い難い状況です。
少しゴタゴタしている状況の背景には、医師法第20条という大きな壁が存在するのです。
目次
医師法第20条の全文は次の通りです。
“医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付し、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付し、又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない。但し、診療中の患者が受診後二十四時間以内に死亡した場合に交付する死亡診断書については、この限りでない。”
これを噛み砕いて書き直すとこうなります。
以下省略
一般的な日本語の理解では、「医師が自ら診察する」という言葉からは、医師が患者の目の前に座って対面して、患者を見て触れて診察をする、というイメージが想像されます。
つまり、オンライン診療(遠隔診療)はNGで、直接の対面診療だけがOKなのか、と思えます。
しかしオンライン診療の技術が、医師法第20条が想定しているより早く進歩した結果、現代のオンライン診療はほとんど直接の対面診療並みに行える、と主張する医師や医療機関が増えてきたのです。
つまり医師法第20条は、オンライン診療を否定しているのか、それとも容認しているのかという議論になったのです。
医師法第20条がオンライン診療を否定していると解釈されてしまったら、オンライン診療を行った医師は法律違反ということになってしまうからです。
そもそも医師法第20条は、不正な医療を防止するために書かれた条文です。
厚生労働省は医師や医療機関に対し、「無診察治療をしてはならない」と注意しています。無診察治療とは、診察をしないで治療に着手することであり、同省はその注意をするときに、医師法第20条を引用しているのです。
以下の文章は、厚生労働省が、医師や医療機関を集めて指導を行ったときの資料の一部です。
“無診察治療等の禁止(療担第12条)
医師が自ら診察を行わずに治療、投薬(処方せんの交付)、診断書の作成等を行うことは、保険診療の必要性について医師の判断が的確に行われているとはいえず、保険診療としては認められるものではない。
なお、無診察治療については、保険診療上不適切であるのみならず、医師法違反(「医師は、自ら診察しないで治療をしてはならない」第20条)に当たるものであり、また、倫理的にも医療安全の観点からも極めて不適切な行為であることは言うまでもない。
(無診察治療の例)
- ・定期的に通院する慢性疾患の患者に対し、診察を行わずに投薬。又は、診察を行わずに処方せんの交付。
- ・通院リハビリテーション目的で訪れた患者が、理学療法士によるリハビリテーションを行ったのみで、医師の診察の事実がないのに再診料を請求。
- ・診療録に、診察に関する記載が全くなかったり、「薬のみ(medication)」等の記載しかない。
(無診察治療の疑い)”
【引用元】 https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/hokkaido/documents/ika27.pdf
ここからも分かる通り、医師法第20条は、医師が自ら診察しないことは、倫理的にも医療安全の観点からも極めて不適切であることを知らしめる条文なのです。
ここには、「患者と実際に会うかどうか」か「ネットテレビを通じて会う」といった問題は、まったく含まれていないのです。
それでは、厚生労働省の変化について見てみましょう。重要なのは、厚生労働省が都道府県知事宛に出した3枚の事務連絡です。
それは1997年の事務連絡と2015年の事務連絡と2017年の事務連絡です。3枚ともタイトルは同じで、「情報通信機器を用いた診療(いわゆる「遠隔診療」)について」となっています。
まずは1997年の事務連絡ですが、簡単に訳すと下記のようなことが書かれていたため、関係者は厚生労働省はオンライン診療(遠隔診療)を強く規制していると理解しました。
診療は、医師と患者が直接対面して行われることが基本。オンライン診療(遠隔診療)は直接の対面診療を補完して行うべきである。
ただ、直接の対面診療の代わりになるくらいに患者情報が得られるのであれば、オンライン診療は医師法第20条違反とはならない。
しかし、初診と急性期の病気は、原則、直接の対面診療でなければならない。
オンライン診療は、相当期間にわたって診療を続けてきた慢性期疾患や、病状が安定している患者を対象にする。
オンライン診療は、直接の対面診療が困難な場合、例えば離島やへき地などにいる患者が、オンライン診療でなければ必要な診療ができない場合に、行われるべき。
直接の対面診療を行うことができる場合は、直接の対面診療によること。
いかがでしょうか。「オンライン診療(遠隔診療)を行ってはいけない、とは言いませんが、極力避けてください」と聞こえないでしょうか。
特に「直接の対面診療を行うことができる場合は、直接の対面診療によること」という文章は、直接の対面診療を優先しなければダメですよと言われているように聞こえます。
それから時が経って、世間にオンライン診療(遠隔診療)の認知度が高まったことから、2015年と2017年にそれほど厳しく規制しているわけではありませんという内容の文書を出したのです。
“1.平成9年遠隔診療通知の「2留意事項(3)ア」において、「直接の対面診療を行うことが困難である場合」として、「離島、へき地の患者」を挙げているが、平成9年遠隔診療通知に示しているとおり、これらは例示であること。”
【引用元】 http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000094452.pdf
「離島、へき地の患者」を挙げているが、平成9年遠隔診療通知に示しているとおり、これらは例示であること。とは、離島・へき地以外でも、直接の対面診療が困難な場合があり、そのときはオンライン診療(遠隔診療)を行ってもやむを得ないかもしれない、というニュアンスを含みます。
よって、やはり厚生労働省はオンライン診療(遠隔診療)の容認に傾いた、と理解できます。
また、「直接の対面診療を行うことが困難である場合」とも言っていて、これは直接の対面診療を優先すべきという原則を緩めています。
2017年では、さらに踏み込んでいます。
“特に、通知中の 3 において、禁煙外来のうち、保険者が実施する場合のみ、定期的な健康診断・健康診査が行われていることを確認し、患者側の要請に基づき、患者側の利益と不利益を十分に勘案した上で、医師の判断により、直接の対面診療の必要性については柔軟に取り扱っても直ちに医師法第20条等に抵触するものではないこととされております。”
“4 においては、テレビ電話や、電子メール、ソーシャルネットワーキングサービス等の情報通信機器を組み合わせた遠隔診療については、遠隔診療はあくまで対面診療を補完するものであるとの基本的考え方の原則のもとで、当事者が医師及び患者本人であることが確認できる限り、直接の対面診療に代替し得る程度の患者の心身の状況に関する有用な情報が得られる場合には、直ちに医師法第20条等に抵触するものではないこととされております。”
【引用元】 http://www.toyama.med.or.jp/wp/wp-content/uploads/2017/07/2017chi1_102.pdf
禁煙外来やSNSについても触れています。かなりオンライン診療(遠隔診療)の幅が広がる予感がします。
さて、厚生労働省の規制が少しずつ緩んできたことがお解りいただけたかと思います。
しかし、オンライン診療(遠隔診療)が全面解禁したわけでもないですし、すべてのオンライン診療は医師法第20条に違反しないというわけでもないので、注意してください。
厚生労働省は、オンライン診療が医師法第20条に違反しないための条件を定めていて、それは依然として有効なのです。
その条件は、こんなにあります。
2018年には、診療報酬の改定があります。診療報酬の改定とは、医療のルールを変えることに他なりません。
オンライン診療(遠隔診療)の医師法第20条に違反しない範囲が広がるかどうか、注目したいところです。
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