Telemedicine Report
記事リリース日:2018年9月14日 / 最終更新日:2019年1月21日
精神科の領域は、オンライン診療(遠隔診療)を積極的に取り入れようとしている診療科のひとつといえるでしょう。 精神疾患の治療では、治療中の患者が自己判断で通院を中断してしまうケースが問題になっていますが、精神科医たちは、オンライン診療なら治療を継続できるのではないかと考えているのです。 オンライン診療による精神科治療の現状と将来性を探りました。
目次
精神疾患の患者が、医師から治ったといわれていないのに治療を中断すると、病気が再発したり以前より悪化するリスクが高まります。重度のうつ病の場合、治療の中断が自殺の引き金になることもあります。
治療費や通院時間、薬を定期的に飲むことのわずらわしさなどの「治療のネガティブの量」が、治療によって症状が軽くなる「治療のポジティブの量」を上回ったとき、患者は「クリニックに行きたくない」と考えます。
ただ患者自身の判断で治療を中断してしまうことは、もちろんほかの病気でも起こります。
精神疾患の場合、さらにもうひとつ、治療を中断させてしまう要因があります。
精神疾患の患者は、医師を含めて誰とも会いたくないと考えたり、「外に出たくない」と感じる傾向があるのです。いわば「病気が治療を中断させている」ともいえます。
それで精神科領域では、診療が必要な人が診療を受けないことが珍しくないのです。
しかしオンライン診療(遠隔診療)は、患者と医師が直接会うこともありませんし、患者が外出する必要もありません。精神科治療の障壁を2つも取り除いています。
オンライン診療(遠隔診療)と精神科治療の相性のよさを理解するには、精神科疾患の特性を知っておく必要があります。
そこでまずは、対面診療での精神科治療の現場の様子を詳しくみていくことにします。
滋賀医科大講師(精神神経科)などを歴任し、現在は滋賀県草津市でメープル・クリニック(心療内科、精神科)を開業している佐藤啓二院長は、自院の治療脱落の実態について調査し、論文を著しました。
同クリニックを受診した549人のうつ病患者のうち、自己都合で通院を中断した患者(治療脱落者)は39%にあたる214名でした。
治療を中断した214名のうち64%(137人)は症状が軽快したためでしたが、症状が変わらなかった患者は32%(68人)に達しました。
佐藤医師は、症状が継続しているにも関わらず治療を中断している患者が68人もいたことについて「大きな問題」ととらえています。というのも、治療を中断した214人のうち自殺してしまった方が4人いたからです。
また、症状が変わらないにもかかわらず治療を中断してしまった68人のうち6カ月未満で通院しなくなった方は67%にものぼりました。
この論文からは、
ということがわかります。
佐藤医師の論文の全文は下記のURLで読むことができます。
「精神科診療所における治療脱落の実態の一例」(佐藤啓二、石倉佐和子、濱名優、高瀬聡子、杉本英昭)
https://journal.jspn.or.jp/jspn/openpdf/1140070789.pdf
なぜ、精神疾患患者は治療を中断してしまうのでしょうか。新六本木クリニックの来田誠院長は医療メディアのインタビューで「精神科の患者さんは『できれば通院したくない』と思っている。
ちょっとしたきっかけで通院しなくなることが多い」と説明しています。
また精神疾患患者のなかには、一度予約した日に通院しなかっただけで、「次に受診したときに医師に怒られるのではないか」と不安になる人もいるそうです。
また、仕事を持っている患者の場合、発症当初は職場の理解が得られて会社を休んだり早退させてもらったりできるのですが、治療薬やリハビリなどで症状が改善してくると休みにくくなることもあります。
社会環境も精神科治療をしにくくしているのです。
それでは次に、治療中断のリスクについてみていきましょう。
自殺は、精神疾患の治療中断の最も大きなリスクといえます。自殺以外にも、快方に向かっていた症状が再発したり、治療前より悪化するリスクがあります。
精神科領域の治療中断のリスクがこれほど高いのは、薬による治療のウェイトが大きいからです。通院中断によって薬の入手ができなくなり、治らなくなってしまうのです。
例えば統合失調症は脳内の神経伝達物質ドパミンのバランスが崩れたときに発症すると考えられています。それで統合失調症の治療では、ドパミンを調整する第二世代抗精神病薬という薬が使われています。
この薬は従来のものより、体のこわばりや手の震え、眠気などの副作用が小さいとされ、幻覚や妄想が消え社会復帰できる可能性を高めます。
しかしこの薬の服用を中断すると統合失調症が再発し、病態が進行し、社会的・職業的機能が低下してしまうのです。
「医師による処方薬を飲めば快方に向かい、飲まなければ悪化する」ということは「通院すれば快方に向かい、通院を中断すれば悪化する」ということと同じ意味なのです。
先ほど紹介した新六本木クリニックの来田院長は、「精神科疾患の患者さんには対面診療以外の選択肢を用意する必要があると考えていた」と話しています。それで同クリニックでは2016年にオンライン診療(遠隔診療)を自院に取り入れることにしました。
オンライン診療が医療保険の対象になったのが2018年4月ですので、来田院長はその2年も前からオンライン精神科治療の実績を積んできたわけです。
来田院長がオンライン診療にいち早く取り組んだのは、病院勤務時代に治療の継続率を高めなければならないと感じていたからです。そして、インターネットなどのオンラインを活用すれば、患者とのコミュニケーションが取りやすいと考えました。
さらに、アメリカの精神科でオンライン診療が普及していることも、その将来性や可能性を信じる根拠になりました。
来田院長のクリニックでは、株式会社メドレーのクリニクスというオンライン診療システムを利用しています。クリニクスには問診機能がついていて、患者のスマホ画面に質問が出てきます。患者はスマホ画面で答えることができます。
オンライン診療であっても医療保険診療をするときは、初診は対面診療でなければなりません。
しかしオンライン問診で医師が患者情報を得ておけば、初診の対面診療でより深い質問から始めることができます。
患者は初めて会った医師でも「自分のことを知ってくれている」という安心感を得ることができます。
さらに来田院長は、オンライン診療を導入すると患者の自宅の様子がわかり、それが治療に役立つと考えています。 オンライン診療を受けている患者が自宅にいることが多く、患者の顔や姿はスマホのカメラを通じて診察室にいる医師のパソコン画面に現れます。
そのため、患者が日中なのにパジャマを着ていたり、髪が乱れたままだったり、昼間でもカーテンを閉め切っていたりすることがわかります。精神科医はそういった私生活の状況を把握しながら治療の進捗状況を判断するのです。
外来の対面診療では、外出が必要という事で、多くの患者は身だしなみを整えるので、患者のリアルな日常生活までわかりません。
しかし、オンライン診療であれば、患者のありのままの状況を把握しやすいというメリットが挙げられます。
オンライン診療のメリットはまだあります。それは対面診療と組み合わせることで、治療にメリハリが生まれることです。
例えば、「次回の診療は経過観察なのでオンライン診療でいいでしょう」とすることもできますし、「血液検査と心理テストを行うので次は対面診療にしましょう」とすることもできます。 患者側にとっても、病院へ通院しなければならない理由を理解しやすいのです。
来田院長はオンライン診療の普及を進めようと、オンライン診療研究会を立ち上げ、自身は事務局長に就任しました。
オンライン診療の利便性を深く実感しているようです。
精神疾患治療にオンライン診療(遠隔診療)を導入すると、患者の通院ストレスを減らせるかもしれないことがわかりました。
患者とのつながりが何より重要な精神科領域で、この長所は小さくないのではないでしょうか。
どのような治療であっても、患者が医師と接触したり薬を飲んだりする目的は苦痛を減らすことになるので、それにつながるオンライン診療などの新しい取り組みは、患者の利益を増やすものといえそうです。
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