Telemedicine Report
記事リリース日:2018年9月25日 / 最終更新日:2019年1月21日
医療保険制度上のオンライン診療(遠隔診療)が2018年4月、本格始動しましたが、すでに「次の大きなテーマ」が動き始めています。
それはオンライン服薬指導です。オンライン診療は患者と医師がネットでつながりますが、オンライン服薬指導も薬剤師がパソコンとスマホを使って患者に薬の飲み方などを教えるのです。
政府の規制改革推進会議で、「受診から服薬指導、薬の授受までの一気通貫の在宅医療の実現を」という、勢いがある言葉が飛び出しました。政府は医療費削減策として在宅医療を進めているわけですが、オンライン服薬指導を拡大する方向で動いています。オンライン服薬指導を国家戦略特区で実施することも決まりました。
また、民間企業はコンピューターシステムを開発して、オンライン服薬指導の普及とビジネスチャンスを狙っています。
「一気通貫(いっきつうかん)」とは、麻雀用語で、数字が書かれた牌(はい)を1から9まですべてそろえる手のことです。そこから「始めから終わりまですべてそろっている」「最初から最後まで一貫したサービスを行う」という意味を持ちます。
このようなおよそ厚生労働省が使わないような言葉が、2018年6月4日の政府の規制改革推進会議で出ました。この会議のメンバーは大学教授や企業経営者たちで構成され、民間の「目」から、取っ払ったほうがよい規制を政府に提言します。
その重要な席で「受診から服薬指導、薬の授受までの一気通貫の在宅医療を実現すべし」という提言が出たことは、オンライン診療(遠隔診療)領域と薬学領域に大きなインパクトを与えました。
服薬指導とは、薬剤師が患者に薬の飲み方などを教える医療行為です。薬剤師は医師が出した処方箋とおりの薬を患者に出すわけですが、このとき単に薬を渡すだけだと、患者が自分の判断で薬を飲まなかったり過剰に飲んだりしてしまう可能性があります。服薬指導は薬の服用を確実にするために重要なのです。
その服薬指導は現行法では対面で行うことになっていて、オンライン診療のようなネットのシステムを使って実施することは法律違反になります。
ただ一般の方や患者は直感的に、「医師が患者を診るオンライン診療が認められているのだから、オンライン服薬指導も認められてしかるべきではないか」と感じているのではないでしょうか。
それは政府や厚生労働省も感じているようです。そこで国は、まずは国家戦略特区という制度を使って、オンライン服薬指導を実施することにしました。
国家戦略特区制度とは、「社会的に便利で有意義なことは明らかだが、まだ法律的なOKが出ていない事業」を、国が指定する地方自治体に限って行ってみる仕組みです。
国家戦略特区で成果が出れば、「法律的なOK」を出しやすくなる、というわけです。
愛知県はオンライン服薬指導の国家戦略特区のひとつです。
愛知県で着手している方法では、まず、すでにオンライン診療(遠隔診療)を行っている内科クリニックを指定します。その内科クリニックの医師は、オンライン診療を受けている患者に処方せんをファックスで送信します。医師は同時に、処方せんの本紙を薬局に郵送します。
処方せんを受け取った薬局の薬剤師は、ネットにつないだテレビ電話システム(オンライン服薬指導)で患者に服薬指導を行ったのち、処方せんとおりの薬を患者のところに宅配便で送付します。オンライン服薬指導のシステムは、オンライン診療と同じです。
概念図は以下のとおりです。
愛知県がこのオンライン服薬指導事業で手を組んだのは、株式会社アインホールディングスです。同社の本社は札幌市にありますが、全国に調剤薬局を1,029店、ドラッグストアを48店展開する企業です。
同社は今回の国家戦略特区に参加する目的についてメディアの質問に「全国展開をするためというより、オンライン服薬指導の課題を探したい」と話しています。
福岡県もオンライン服薬指導の国家戦略特区に指定されました。ここでは、株式会社インテグリティ・ヘルスケア(本社・東京都)と、地元福岡県のヒューガ・ファーマシー株式会社がタッグを組みます。
インテグリティ・ヘルスケアは、東京と宮城県石巻市で在宅医療クリニックを展開している医療法人社団鉄祐会の武藤真祐理事長が代表取締役会長を務めています。
武藤氏はテレビ番組をはじめ、新聞や雑誌などの媒体で紹介されることが多く、医療界に新しい風を吹き込んでいる医師です。
インテグリティ・ヘルスケアはオンライン診療(遠隔診療)のシステムを独自に開発していて、オンライン服薬指導でもその技術を活用します。
ヒューガ・ファーマシーは福岡県内に「きらり薬局」をチェーン展開している企業です。同社の従業員273人のうち47%の128人が薬剤師です。
福岡のケースも愛知県とほぼ同じです。クリニックの医師は患者とオンライン診療システムでつながり、きらり薬局の薬剤師はオンライン服薬指導システムで患者とつながります。
日本薬剤師会は2018年6月に「オンライン服薬指導に関する考え方について」という文書を公表しました。
日本薬剤師会はオンライン服薬指導について真っ向から反対しているわけではありませんが、やや消極姿勢のようです。
その文書の内容を要約すると次の2点になります。
「オンラインより対面を優先したほうがよい」「オンライン服薬指導の導入は慎重に行うべき」という考えはあるようですが、「オンライン服薬指導の国家戦略特区事業の動向を踏まえる」とあることから、特区でよい結果が出れば積極的な評価に転じる可能性がある、とも読み取れます。
オンライン服薬指導には、強い懸念の声も出ています。
日本医師会の副会長が2018年6月の臨時代議員会でオンライン服薬指導について「厳しく対応していく」と語りました。日本医師会はオンライン診療(遠隔診療)についても「あくまで対面診療の補完」と述べるなど、積極的な評価はしていませんでした。
それでオンライン診療を拡大しかねないオンライン服薬指導にも消極姿勢を取ることを表明したのでしょう。つまり「オンラインによる医療が一気通貫になること」を容認しない立場といっていいでしょう。
日本医師会は国内最大級の医療系団体ですので、医療行政への影響力も大きいものがあります。
その臨時代議員会では、他の医師からも「在宅医療を使っていて、症状が落ち着いている患者さんには、薬さえあればよく、薬剤師がオンライン服薬指導すれば足りる、医師はスキップしよう、という考えが透けてみえる」と政府の取り組みを批判する声が出ました。
高血圧や糖尿病などの慢性期疾患の患者で、「クリニックには薬をもらいに行くだけ」と感じている方は少なくないでしょう。クリニックの診察室に入っても医師と少し話をして血圧を測って終わり、もしくは数カ月に1回採血するだけ、ということは珍しくありません。
診察前後の待ち時間のほうが、診察時間より長いくらいです。クリニックの受け付けでもらった処方せんを持って隣の薬局に行き、薬を買うのが「通常ルート」です。
もちろん高血圧や糖尿病は、心臓や脳や腎臓や肝臓など、生命維持に直結する重要臓器に重大な障害をもたらすため、医師による経過観察や薬剤師による服薬指導は重要です。
しかしその重要性を差し引いても、忙しいビジネスパーソンなどは「3カ月に1回、せめて半年に1回くらいは、オンラインで会話するだけで薬を送ってもらえないものか」と思っているのではないでしょうか。
もしかしたら医師のなかにも「オンライン診療とオンライン服薬指導で支障をきたさない患者はたくさんいる」と考えているかもしれません。
国や医師や薬剤師には知恵を絞ってもらって、患者、医師、薬剤師がWin=Win=Win(全ての立場にとって大きなメリットをもたらす)となれるようなオンライン診療やオンライン服薬指導というものを考えていただきたいところです。
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