Telemedicine Report
記事リリース日:2018年10月4日 / 最終更新日:2019年1月21日
オンライン診療(遠隔診療)はIT技術をふんだんに使うことで、医師の負担を減らしたり、医師の診療を手助けしたりしています。もちろん、患者にも利便性をもたらしています。
ITは、元々はコンピューター領域の新技術でした。それを医療に応用したわけです。
そしてコンピューター業界ではいま、ITをさらに進化させたAI(人工知能)に注目が集まっています。AIはすでに、人とコンピューターが自然に会話するまでに進化しています。
そしてAIも、医療領域に入ってきました。ITがオンライン診療という魅力あふれる医療をもたらしたように、AIは患者の健康にどのように貢献するのでしょうか。
自治医科大学が開発した、AIを活用した「総合診療支援システム」を紹介します。その名も、ホワイト・ジャックといいます。
目次
AIはartficial intelligenceの略で、普通のコンピューターとは区別して考えられています。
普通のコンピューターは、「a,b,c…」のなかから「a」をみつけることはできますが、「a’」や「A」については「aではない」と判定してしまいます。
ところがAIを搭載したコンピューターなら、「a’はaに類似したものに違いない」「artとARTが同じ意味で使われている。ということはAはaのはず」と推測することができるのです。
人は、猫の顔の写真だけを見せられても「それは猫である」と認識できます。アメリカンショートヘアの顔写真でもロシアンブルーの顔写真でも、猫とわかります。
しかし普通のコンピューターは、猫の写真だけでは猫と認識できません。
なぜなら猫も犬もキツネも「毛むくじゃらで頭の上に耳がついている動物」だからです。しかしAIは人と同じように、どのような猫の顔の写真でも猫と判断できます。
なぜそのようなことができるのかというと、AIは学習するからです。AIは、人の指導によって賢くなるのです。
猫の顔を判断させるには、1万枚の猫の顔の写真をAIに読み込ませ「これが猫である」と教えます。その次に1万枚の犬の顔の写真をAIに読み込ませて「これが犬である」と教えます。
するとAIは、自分なりに猫の特徴と犬の特徴を判断できるようになるので、その次にまったく新しい猫の写真を見せても「猫である」と当てることができるのです。
囲碁の世界チャンピオンに勝ったAIも、基本的には「a探し」や「猫の顔当て」と同じなのですが、最近はさらに発達しています。
かつての囲碁AIは、プロ棋士たちの戦い方を何万通りも読み込んで最善の次の一手を探し出しましたが、最新の囲碁AIは囲碁のルールを教えるだけでよくなりました。そのルールに沿って自分でシミュレーションを重ねて最良の一手を探すことができるようになったのです。
自治医科大学のAI総合診療支援システム「ホワイト・ジャック」を紹介する前に、もうひとつ確認しておきたいことがあります。
それは、医師の診断ミスが悲劇を招く、ということです。これを知っておくと、AIが医師の診療を支援することの意義を、より深く理解できると思います。
これは山口県で起きた医療事故です。
男性が腰と背中の痛みを訴えて総合病院を受診したところ、医師は「緊急性はない」と診断し男性を帰宅させました。しかし男性は同日、腹部大動脈りゅう破裂で心肺停止状態に陥り、救急搬送されましたが翌日死亡しました。
遺族は医師の診断ミスがあったとして、6,200万円の損害賠償を求める訴訟を起こしました。一審の地裁は遺族側の請求を棄却しましたが、二審の高裁は病院側に3,200万円の損害賠償を命じました。
高裁の裁判長は、「医師が掘り下げた診察をしなかった。男性の症状から、腹部大動脈りゅう破裂を疑いCT検査を実施すべきところ、実施しなかった」と認定したのです。
ホワイト・ジャックはまさに、患者の訴えなどから発症が疑われる複数の病名を医師に教え、さらに必要な検査まで提案してくれるのです。
山口県の総合病院の悲劇を減らしたりなくしたりすることが期待できます。
それでは、自治医科大学が開発した総合診療支援システム「ホワイト・ジャック」の概要をみていきましょう。
ホワイト・ジャックに患者の予診や問診の情報、さらに患者の生活習慣や生活環境などのデータを読み込ませると、病名候補を示すとともに、病名ごとに必要な検査や薬も教えてくれます。
ちなみに予診とは、患者の症状の訴えや本人・家族の既往歴などのことをいいます。問診とは、医師や看護師の質問に患者が答えることで得られる情報のことです。
ホワイト・ジャックはさらに、似た症状を引き起こす重大な病気のことも医師に教え、その病気の可能性を排除するための検査方法も提示してくれます。
先ほど紹介した山口県の医療事故を例に取ると、「この症状だと腹部大動脈りゅう破裂の可能性を否定できないので、念のためCT検査をするように」といった提案をしてくれるわけです。
AIであるホワイト・ジャックは、コンピューターを組み立てただけではまだ賢くありません。教師をつけて学習させる必要があります。
ホワイト・ジャックの教師のひとつは、医学教科書や文献、論文です。これは医師の「教師」でもあります。すなわちホワイト・ジャックは、医学部生が医師になるために必要な勉強を積み重ねるわけです。
人間である医学部生や医師は、勉強を長時間続けると飽きたり疲れたりしますが、ホワイト・ジャックはコンピューターなので、飽きも疲れもありません。しかもコンピューターは、暗記は得意中の得意です。
ホワイト・ジャックはさらに、現場の症例データや診療情報も次々吸収していきます。例えば医師が10人いる病院にホワイト・ジャックを導入すれば、ホワイト・ジャックは「同僚」の10人の医師の診療方法を学習することができるのです。
ホワイト・ジャックが現場の医療をリアルタイムで学べる意義は大きく、そのことで患者や病気の地域特性を把握することができます。
AIがどれほど賢くなろうと、ホワイト・ジャックの仕事は「診療」ではなく「診療の支援」です。ホワイト・ジャックは複数の提案をするだけで、最終的に診断を下すのは必ず医師です。
しかしその支援は、現場の医師が強く求めるものでしょう。発症確率は低いものの疑わなければならない重大な病気や、特定の検査をやらなければ診断できない検査などは、専門医にとっては当たり前のことでも、その専門ではない医師にとっては「特別な知識」です。
特に地方の医師は、自分の専門分野の患者だけ診ることは許されず、専門外の病気も次々治療していかなければなりません。そのようなときにホワイト・ジャックがそばにあれば、医師は常に「特別な知識」に基づいた助言を得られるわけです。
現状のホワイト・ジャックは、文字情報のみで学習します。予診や問診も文字情報に変換してからホワイト・ジャックに読み込ませることになります。論文や医師の診療情報も文字情報です。
しかし将来的には、患者の顔色や身体特性という画像情報も、病名推測の資料にできるようになります。さらに医師と患者の会話から心理状況を分析できるようになるかもしれません。
文字だけでなく画像や音声の情報を活用できる点も、AIを使うメリットです。
オンライン診療(遠隔診療)は専門医と現場の医師を結ぶことができます。現場の医師が困ったときに、オンライン診療のシステムを経由して専門医に相談できるのです。
ホワイト・ジャックはこれをさらに進化させ、相談先をAIにしたわけです。
医師不足や医療事故などの問題の解決に、ITやAIなどのテクノロジーが貢献することは、医師にも患者にも大きな恩恵をもたらすでしょう。
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