記事リリース日:2018年10月12日 / 最終更新日:2019年1月21日
ITはコミュニケーションを高めるから
医療の質を高める
「日本の医療はもっとIT化したほうがよい」と言ったら、驚く人がいるのではないでしょうか。
「日本の医療は世界最高水準だから、十分IT化されているはずだ」と思った方は、考えをあらためたほうがよいかもしれません。
確かに日本の医療水準が世界トップレベルであることは間違いないのですが、日本の医療は、実はそれほどIT化されているわけではないのです。
例えば、医療の最も基本的なITといえる電子カルテの普及率は、病院で34%(2017年4月)にすぎません。
カルテの記載内容は治療をするうえで最も重要な情報ですが、そのような大切な情報が3分の2の病院で電子化されていないのです。
では医療のIT化が何を実現するかというと、患者には治療効果を、医師には確実な治療方針を、そして医療機関には経営の安定をもたらすのです。
IT医療は患者に治療効果をもたらす
まずはIT医療が患者にどのような利益をもたらすのかをみていきましょう。
ここで紹介するのは、アメリカのオクスナー(Ochsner Health System)という医療法人が取り組んでいる事例です。
オクスナーは20の病院と90の診療所を経営する医療機関グループで、積極的に医療のIT化を進めているのです。
オクスナーは自院の患者ベッドにタブレットのiPadを置きました。
入院患者はiPadに表示された検査結果をみながら医師や看護師の説明を聞くことができます。これにより、治療の進行具合が見える化されるので、患者は医療知識が深まり治療に専念するモチベーションが生まれます。
またiPadには医師や看護師たちの経歴も記載されているので、患者は主治医や担当看護師が、自分の病気の治療を専門にしている人なのかどうかがわかります。
これにより患者の医師たちへの信頼度が増すことが期待できます。
IT医療のメリットは、退院後にも発揮されます。
オクスナーではスマホやタブレットやアプリを活用して、退院した患者のモニタリングを行っており、特に独居高齢者へのケアには力を入れています。
というのも、心不全の治療を受けた一部の患者は、退院後の数週間以内に再発を起こしたり、薬を処方された患者の約半数が1年以内に薬を飲まなくなったりしていることがわかっているからです。
病院がIT機器を使って退院後の患者の生活に介入できれば、患者に行動変容を促したり、服薬管理を徹底させたりすることができます。行動変容とは、より治療効果が出やすい生活習慣にあらためさせることです。
オクスナーはさらに、病院に“ITコンシェルジュ”職員を配置し、高齢患者たちにアプリの使い方などを教えたりしています。
“使えないから使わない”のではなく、病院が高齢者にIT指導をしてしまうところは、IT超大国アメリカらしい取り組みといえるでしょう。
IT医療は医師に確実な治療方針をもたらす
オクスナーによると、医師の業務時間の25%は患者とのコミュニケーションに割かれ、患者の治療に使われる時間は50%未満にすぎません。
そして医療ミスの80%はコミュニケーション不足にあるとされています。
つまり医師は、患者とのコミュニケーションを増やさないと医療ミスを防げないのに、コミュニケーションを増やすと治療時間が削られるというジレンマを抱えているのです。
これは恐らく日本の医師も同じでしょう。もしかしたら日本の医師のほうがこのジレンマをより強く感じているかもしれません。
そこでオクスナーは、病院内にITを張り巡らせて、医師や看護師がどこにいても電子カルテや検査結果、患者のバイタルサイン(体温や脈拍や血圧など)のデータにアクセスできるようにしました。
医師たちは情報集めの時間を格段に短縮できます。
さらに医療従事者どうしの情報のやりとりも、PHSからスマホに変えました。
PHSでは音声でしか情報交換できませんが、スマホであればテキストやデータをやりとりすることができます。
スマホなら鮮明な画像を送信することができるので、看護師が患者の患部をスマホで撮影し、別の場所にいる医師に送信して指示をあおぐこともできます。これも時短につながります。
さらにオクスナーは、外科医にスマート腕時計のアップルウォッチも支給しました。外科医が手術中でも急いで知りたい検査結果を手元で確認することができるのです。
医師に大量の情報が瞬時に集まれば、より正しい治療方針をより早く打ち出すことができます。
IT医療は医療機関に経営の安定をもたらす
先ほど医師と患者のコミュニケーションについて触れましたが、オクスナーの試算では、500床規模の病院だとコミュニケーションの非効率さによって年間400万ドル(約4億4,000万円)を失うそうです。
4億4,000万円の損失とは、例えば手術1回の治療費が100万円とすると、440回分の手術を無料で行っているようなものです。
治療費とは病院の売り上げですので、これは病院の経営に大きな影響を与えます。
オクスナーは、毎年売り上げの2.5%をIT投資に回しています。2.5%がいくらに相当するのか不明ですが、これは決して少ない金額ではありません。
例えば約1,200床の東京大学附属病院の年間売り上げは約470億円です。その2.5%は約1,200万円です。
オクスナーは20の病院と90の診療所を持っているので、それらの売り上げの2.5%のIT投資は「かなり積極的な取り組み」といえるでしょう。
しかもIT機器は一度導入すれば長期間使えるので、毎年IT投資すれば病院の「IT力」は年々パワーアップします。
そしてオクスナーはIT化を進めたことで利益率が向上したのです。つまり「儲け体質」になったのです。
現代の医療はある意味で装置産業でもあるので、高額な医療機器を購入するために病院が儲け体質になることはとても重要です。
例えば今後、IT医療よりスマートなAI(人工知能)医療が加速度的に進化するはずです。利益を確保できれば、AI投資も先行して行えます。
実際、オクスナーはAI医療の導入を検討しています。
オクスナーがターゲットにしているのは、AIで入院患者の急変を予測するシステムです。
患者が、死亡リスクが急激に高まる心不全や敗血症に陥る事態を防ぐ方策を検討しているそうです。
またAIと電子カルテを組み合わせて4時間後の患者の状態を予測しようとしています。
電子カルテには検査結果や看護師の観察記録などが次々記載されるので、AIでそれらの情報をリアルタイムで分析していこう、というわけです。
AIが4時間後の急変を予測したら、救急担当の医師の腕につけられているアップルウォッチで知らせることもできます。
床ずれや院内感染の予防にもAIは使えるそうです。
まとめ~温かくするのも冷たくするのも人次第
「機械は非情で冷たいもの」と考える人は少なくありません。ましてやIT機器は普及が進んでから数十年しか経っていないので、なお冷酷な印象に感じるかもしれません。
しかしITは医療を温かくすることができます。なぜならITによって医師や看護師の業務が省力化されれば、それだけ患者に関わる機会が増えるからです。
IT医療は速いだけではありません。
ITを駆使すれば、正しい情報を増やし、あやふやな情報や間違った情報を排除することができます。つまりエビデンス(根拠)に基づいた医療を徹底できるのです。
日本とアメリカでは医療保険制度が異なるので、日本の病院はアメリカの病院のように積極的なIT投資をすることが難しいかもしれません。
しかしIT投資で売り上げや利益率が上がれば、病院やクリニックの経営の好循環を生み出すことができるかもしれません。
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