Telemedicine Report
記事リリース日:2018年10月22日 / 最終更新日:2019年1月21日
オンライン診療(遠隔診療)は「人を健康にする」ための、ITを使った新しい医療です。
そのオンライン診療を“会社の健康”を向上させるために積極的に取り入れようという企業が現れました。
ウイスキーをはじめ、様々なアルコールや飲料全般を扱っているサントリー(SUNTORY)です。
いま多くの企業は「健康経営」に取り組んでいます。企業の経営は社員の健康が土台になっているので、企業が社員の健康をサポートすると経営もうまくいく、という考え方です。
オンライン診療がどのように健康経営に関わるのか、みていきましょう。
目次
サントリーのオンライン診療戦略を紹介する前に、健康経営についてもう少し詳しく解説します。
健康経営は国も支援をしている取り組みで、経済産業省は健康経営を次のように定義しています。
このような取り組みをしている企業を、「健康経営をしている会社」と呼ぶわけです。
それでは健康経営をしている企業はどのような「利益」が得られるのでしょうか。
企業は営利を追求しなければならないので、「投資」をする以上「利益」を得なければなりません。
健康経営をした場合の利益についても、経済産業省は次のように示しています。
従業員の健康状態に問題がなければ、仕事に集中する事ができて一生懸命働けるので、結果的に会社の業績にも結び付き、株価も上向くというわけです。
サントリースピリッツ株式会社やサントリービール株式会社など312社を傘下に持つサントリーホールディングス株式会社は2018年7月、オンライン診療(遠隔診療)を展開する医療法人の協力を得て、健康経営を拡充すると発表しました。
サントリーのオンライン診療戦略は、次の2本柱になっています。
1つずつみていきましょう。
サントリーのオンライン診療戦略その1は、社員の高齢家族を支援する施策です。
対象となる高齢家族は、社員とその配偶者の75歳以上の後期高齢者を想定しています。
社員の親などで、離れて住む高齢者家族がいた場合に、介護が必要になっていたり、医療機関への通院の負担が大きくなっていたりする場合、その家族に対しても会社(サントリー)側がオンライン診療の導入を支援します。
高齢者がオンライン診療を受ける場合、わざわざ病院などに行かなくても診療が受けられるメリットがある一方で、スマホやタブレットなどのIT機器を使いこなさなければならないとういデメリットもあります。
会社が高齢者のオンライン診療の導入を手助けしてくれれば、対象となる社員はとても心強く感じることでしょう。
また、サントリーは、高齢家族がオンライン診療を行っていない医療機関の医師を主治医にしている場合、その医療機関に対してオンライン診療導入支援も進めていきます。
高齢家族の介護や医療がオンライン診療によって手配されれば、社員は会社を辞めなくて済みます。
家族の介護をすることを理由に退職することを介護離職といいます。
介護離職は、企業は貴重な人材を失い、社員は職を失うことになるので、企業側も社員とその家族にとっても良い事はありません。
そのような悪循環が日本経済にとっては非常に深刻な問題になっています。この問題は後ほど詳しく解説します。
サントリーのオンライン診療戦略その2は、40歳未満の若手社員に対してオンライン保健指導を行うことです。
糖尿病、高血圧、肝臓病、腎臓病、脳梗塞、心筋梗塞、がんなどの生活習慣病は、一般的に40歳以上の人が高いリスクを抱えます。
そこで厚生労働省は国民健康保険や企業の健康保険組合に対し、40~74歳の被保険者・被扶養者(社員やその家族)に、生活習慣病やメタボリックシンドロームの予防を目的とした特定健診や特定保健指導を行うことを義務化しています。
しかし最近は生活習慣病の低年齢化が進み、40歳未満の人でもリスクが高まっているのです。
そこでサントリーは、生活習慣病予備軍の40歳未満社員に対し、オンライン保健指導を受けるよう促します。
40歳未満社員がスマホやタブレットで保健指導を受ける仕組みはオンライン診療と同じですが、保健指導するのは医師ではなく保健師、看護師、管理栄養士になります。
オンライン保健指導は「診療」ではなく、食習慣や生活習慣を改善するアドバイスになります。これにより生活習慣病の発症や重病化の予防を目指します。
家族の介護を理由とした離職と聞いても、介護を経験していない方は、
「親や祖父母などの介護は介護員と介護施設に任せればいいのではないか」
「介護保険制度を頼れば仕事を続けることができるのではないか」
と考えるかもしれません。しかし実際の介護の現場では、そう簡単な話ではなく、スムーズにいかないことが多いのです。
例えば軽度の認知症の場合、介護保険制度で使える介護サービスの種類が限られています。
また介護家族が施設に入りたがらない場合、自宅で介護することになりますが、そうなると訪問介護サービスを使うことになります。しかし訪問介護サービスは24時間つきっきりというわけにはいきません。
そうなるとどうしても家族介護が必要になります。家族を介護する人が働いていて、介護と仕事を両立できなくなると離職につながってしまうのです。
総務省によると、2017年の介護離職者数は99,100人でした。つまり毎年10万人の労働者が、本来は問題なく働けるにも関わらず“親などの介護を理由に”離職を余儀なくされているのです。
日本の人口はただでさえ減り続け、どの業界、業種でも人手不足が課題になっています。そのうえ年間10万人もの労働力が消えているわけですから介護離職は最早、経済問題なのです。
政府も“介護離職ゼロ”を掲げて対策に取り組んでいます。
40歳以上の人の生活習慣病も深刻な社会問題になっており、こちらは従来からの問題といえますが、一方、40歳未満の生活習慣病の問題は“新しい問題”といえます。
日本の医療費が国や地方自治体の財政を圧迫していることは周知のことと思いますが、新しい問題の出現は、医療財政をさらに圧迫することになります。
また、若くして生活習慣病を発症すると、それだけ長く治療を継続することになります。若年で発症すれば重症化リスクも高まります。
つまり、40歳未満の生活習慣病は、患者がより苦しむことになる恐い現象なのです。
東京大学医学部附属病院などが著した「職業別のライフスタイルと生活習慣病予防対策について」によると、現代社会は生活習慣病の若年化を誘発しやすい構造になっています。
例えば、日本の労働者に占める「専門的職業従事者、事務従事者、販売従事者、サービス業従事者」の割合は年々増加しています。それに伴い「生産工程・労務作業者」の割合が減っています。
この論文によると「専門的職業従事者、事務従事者、販売従事者、サービス業従事者」は内臓脂肪や高血糖などを生みやすい仕事なのです。
また、非正規雇用者(正社員ではない労働者)は年々増加していますが、この傾向は健康診断を受ける機会を減らすことにつながっています。
健康診断を受けないと生活習慣病を早期に見つけることが難しくなるので、やはり生活習慣病の若年化を誘発しやすいのです。
労働者にとっても企業にとっても行政にとっても医療機関にとっても、サントリーのオンライン診療(遠隔診療)を活用した健康経営が成功することは意義深いことではないでしょうか。
なぜなら介護離職と生活習慣病の若年化という2大健康問題は、誰も幸せにしないからです。
オンライン診療は効果の高さだけでなく、コスト安も期待されています。
つまり安くて良質な医療で2大健康問題を解決できたら、多くの関係者を幸せにできるのです。
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※本記事はシリーズとなっておりますので前記事からの閲覧をおすすめ致します。前記事『【オンライン診療(遠隔診療)の経済学】①首相にプレゼンした「メドレー」ってどんな会社?』はこちらからご覧...
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