Telemedicine Report
記事リリース日:2018年10月31日 / 最終更新日:2019年1月21日
オンライン診療(遠隔診療)を体験したことがある人の中に、株式会社メドレーという社名を聞いたことがあるのではないでしょうか。
オンライン診療で使うアプリ・クリニクスを開発し、運用している会社です。
そのメドレーが、電子カルテを開発しました。
オンライン診療と電子カルテを簡単に説明するとこうなります。
両者は本来はまったく性質が異なるモノですが、メドレーはこの2つを合体させたのです。
この新タイプの電子カルテが普及すれば、患者と医師と医療機関が同時に便利さを実感できるようになるかもしれません。
目次
メドレーが2018年4月に発表したのは「クラウド型電子カルテ・クリニクス(CLINICS)カルテ」(以下、クリニクスカルテ)です。
クリニクスカルテは、電子カルテであり、クラウドであることがポイントです。
カルテは日本語で“診療記録”、“病症録”と訳されます。
カルテには患者の病状や治療内容、症状の経過、医師の所見、看護記録、検査結果などが書かれています。
従来のカルテは紙製ですが、電子カルテはカルテの情報をデータ化してパソコンで操作できるようにしたものです。
クラウドとは、外部のコンピュータとユーザーの手元にあるコンピュータをインターネットで繋げて、必要なサービスを利用する仕組みです。
ユーザーの手元にはパソコンがあるだけで、膨大なデータや最新ソフトは、手元のパソコンではなく、クラウドを管理しているコンピュータ会社のサーバ(大型コンピュータ)のなかに入っており、管理されています。
前提として、あらかじめユーザーのパソコンとコンピュータ会社のサーバはインターネットで繋がっていて、クラウドが利用できる環境が整っている必要があり、
医療機関が電子カルテをクラウド化するメリットは次のとおりです。
「いいことずくめ」のクラウド電子カルテですが、メドレーのクリニクスカルテはもっと進化しています。
クリニクスカルテの特徴は以下のとおりです。
これらの特徴を一言でまとめると、クリニクスカルテは“患者と医師のつながりが強化されるシステム”となります。ひとつずつみていきましょう。
レセプトとは、患者の治療を行った医療機関が、患者が使った医療保険の保険者に医療費を請求するための明細書です。
国民健康保険(市区町村)や協会けんぽや企業の健康保険組合などの公的医療保険に加入している患者は、治療を受けた医療機関で原則、医療費の3割しか支払いません。
残りの医療費の7割は、医療機関が国民健康保険や協会けんぽや企業の健康保険組合などに請求します。
そのとき医療機関はどの患者にどういった内容の治療を行い、どのような薬を処方したかなどをレセプトに記して、そのレセプトを国民健康保険や協会けんぽや企業の健康保険組合などに送信するのです。
レセプトは請求書のようなものです。
こうしたレセプトに関わる事務処理をコンピュータで行うのが、レセプト作成用コンピュータです。レセプト作成用コンピュータは、通常は電子カルテのコンピュータとは別に設置しなければなりません。
しかしクリニクスカルテは、このレセプト作成用コンピュータを内蔵してしまったのです。
レセプトに記載する内容はほとんど電子カルテに書かれてあるので、電子カルテとレセプト作成用コンピュータを合体させることはとても合理的なのです。
これにより、患者の受付、診療記録入力、医療費の算出と請求、患者の支払い、レセプト作成、レセプト作成を、すべてクリニクスカルテ上で行えてしまうのです。
クリニクスカルテに内蔵されているレセプト作成用コンピュータは、日本医師会ORCA管理機構の日医標準レセプトソフト(通称ORCA)です。
メドレーはクリニクスカルテにオンライン診療(遠隔診療)も合体させました。
そのため、1人の患者が1つの医療機関で対面診療とオンライン診療を受けているとき、両方の診療情報を1つのカルテで管理できるようになります。
オンライン診療ではパソコンやネットを利用しますが、そのコンピュータ処理と、電子カルテのコンピュータ処理とレセプト作成のコンピュータ処理が一体になるので、医師や事務職員の事務処理量は格段に減るはずです。
医師はその分、患者とのコミュニケーションに時間を割くことができますし、医療機関は人件費を抑制できるでしょう。
クリニクスカルテはネットに接続しているので、患者のスマホやパソコンとつながることができます。
そこで、まだ治療途中にも関わらずに自己判断で治療を中断してしまった患者に対し、来院を促すことができる機能を搭載しました。
これは医療機関にとっても患者側にとっても、非常に良い事ではないでしょうか。
また、検査結果を患者のスマホに送信することもできます。患者はいつでも自分の健康状態を数値で知ることができるようになり、治療への理解が深まるでしょう。
クリニクスカルテにはさらに、患者が診療予約できたり、来院する前に問診票に回答できたりする機能も備えています。
クレジットカードでの支払いもできます。
もしかしたらクリニクスカルテの本当の“すごさ”は将来性かもしれません。
メドレーは、クリニクスカルテを使って電子処方せんを発行・送信しようとしています。
いまの処方せんは紙製で、患者は医療機関の受付で手渡しで受け取らなければなりません。
電子処方せんになれば、処方せんの情報がインターネット経由で医療機関から患者のスマホに届くわけです。
ビジネスパーソンが会議の資料をインターネットでやりとりするようなイメージです。
処方せんを紙で発行する必要がなくなれば、医療機関にとっては紙などの備品管理や必要な印刷代(電子処方せんシステムの利用代が別途で掛からなければ)が抑えられますし、患者側にとっても処方せんを紛失してしまうリスクも低減され、調剤薬局でのやりとりがスムーズになる筈です。
また、クリニクスカルテには医療に関するすべての情報がデータとして入力されることになるので、データの有効活用が進むでしょう。
ビッグデータとしてAI(人工知能)に応用できるかもしれません。
またクリニクスカルテを院内の検査部門のコンピュータと接続すれば、医師はリアルタイムで検査結果がわかるので、治療効率が向上するはずです。
「医療に関するすべての情報」のなかには「お金のこと」も含まれますので、医療機関の経営者はクリニクスカルテで経営分析やマーケティング戦略を練ることもできます。
日本の医療機関はIT化が遅れているといわれています。
保健医療福祉情報システム工業会の2017年の調査によると、病院の電子カルテ導入率は34.4%でした。
600床以上の病院の電子カルテ導入率は80~90%と高率なのですが、20~29床病院は5.9%と規模が小さくなるほど導入率は下がります。
IT化が遅れている背景には、費用が高いこととITを使いこなせる人材が少ないことがあるといわれています。
しかし、クリニクスカルテの導入コストは、ベーシックな仕様で初期費用100万円、月額4万円となっています。
これはかなりコスト安といえます。
医療機関にサーバなどの大型コンピュータを設置しないで済むクラウドタイプなので、この費用で済むのです。
時代が進むにつれ、コンピュータに慣れ親しんで育つ若者世代を中心に、パソコンやネットの操作を苦にしない医師が増えているので、今後は医療のIT化は急速に進むでしょう。
クリニクスカルテの利便性が立証されれば、医療機関におけるIT化のきっかけになるかもしれません。
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