Telemedicine Report
記事リリース日:2018年12月7日 / 最終更新日:2019年1月21日
「医師が不足している」と聞くと意外に感じるかもしれません。
病院に行けば医師はたくさんいて、駅周辺にはクリニックの看板が並んでいます。大学の医学部の定員も増えています。
確かに医師は増えています。
但し、都市部においてはの話です。
特定の地域と特定の診療科では、医師が足りていないのです。
この地域偏在・診療科偏在という新たな医師不足問題の解決に、オンライン診療(遠隔診療)が貢献するかもしれません。
オンライン診療は医師の手間を大幅に省くことができるので、ひとりの医師が診る患者数を増やすことができるのです。
ひとりの医師が多くの患者を診ることができれば、医師不足が緩和されます。
または、オンライン診療なら診療時間を短縮できるので、医師の負担軽減につながるかもしれません。
目次
日本の人口10万人に対する医師数は、2018年は259.7人/10万人です。先進国などOECD加盟国の平均が290人/10万人なので、日本の医師数はやや少なめといえます。
ただ、日本の医師数は右肩上がりで増加していて、2025年には290人/10万人に達し、2013年には331.9人/10万人になると推計されています。そのころには医師余りが起きているかもしれません。
日本国内の医学部の定員は、2005年は7,625人でしたが、2017年は9,420人まで増えました。
医師数は増えても、それでも医師不足に悩む地域と診療科が存在するのです。
厚生労働省によると全国の2次医療圏349カ所のうち2008年から2014年の間に、41カ所で医師が減りました。増えたのは301カ所で、7カ所は横ばいでした。
医療圏とは都道府県が定めた地域の範囲で、2次医療圏は複数の市町村で構成されます。
そして厚生労働省の調べでは、36の都道府県で医師が最も多い地域と最も少ない地域の差が拡大していることもわかりました。
医師が元々多い地域は医師がますます増え、医師が元々少ない地域はさらに減るという現象が起きているのです。
1994年時点での麻酔科医の人数を1とすると、2013年には1.84になりました。
医師全体は、1から1.34に増えたので、麻酔科医の増加率は「かなり高い」といえます。
精神科医も同じ期間に1から1.6に増加しています。
麻酔科と精神科は、医師に人気の診療科なのです。
一方、内科医は1から1.24にしか増えていません。そして外科医は1から0.99に、産婦人科医は1から0.97へと減っているのです。
これが、診療科ごとに医師数が偏在している実態です。
医療費の高騰が日本の財政を圧迫していることは周知のとおりです。
厚生労働省は医療費を減らそうと、病院での診療を減らし在宅での診療を増やそうとしています。
病院での診療は、入院設備の使用にコストがかかりますし、病院内には常に医師や看護師などがいるので人件費もかかります。
一方、患者の家に医師や看護師が訪問する訪問診療や訪問看護なら病院設備は要りませんし、常時医師や看護師がみるわけではないので人件費もそれほどかかりません。
したがって訪問診療は医療のコストダウンの切り札なのです。
また数週間以内に亡くなる可能性が高い患者であれば、病院ではなく自宅に帰りたいと要望するかもしれず、訪問診療ならその希望をかなえることができます。
しかし訪問診療には決定的なデメリットがあります。
中央社会保険医療協議会(中医協)によると、訪問診療医は増えていないのです。
なぜなら、訪問診療を受けている患者は急変しやすく、なおかつ死亡リスクが高いので、訪問診療医は24時間365日対応が求められます。
また医師が患者宅に向かうまでの時間は、医師の勤務時間にも関わらず、実質的に移動しかしていないのです。
そのため訪問診療医が多くの患者を診ようとすると、医師の労働時間が増えてしまいます。
医師の負担増はまだあります。
それは、ひとりの訪問診療医がさまざまな病気を診なければならないことです。
例えば病院でれば、一般内科医、循環器内科医、消化器内科医、耳鼻科医、眼科医などがいます。
しかしひとりの患者宅に、これらの医師が入れ替わり立ち替わり訪問するわけにはいきません。
高齢になるほど病気の種類も病気の数も増えていきます。訪問診療医がすべてを診てあげないと、在宅患者の生活の質は向上しないのです。
医師不足や医師の過重労働は、オンライン診療(遠隔診療)で大幅に減らすことができるでしょう。
それはオンライン診療には、ITとインターネットという強力な武器があるからです。
ITは産業を一変させました。
いまや日本経済は、ITとインターネットなしには動かないでしょう。
またITは労働の省力化を達成しつつ、生産性を向上させることができます。
ITは、働き方改革やワークライフバランスの改善に欠かすことができないツールです。
したがってオンライン診療が日本の医療界で拡大すれば、患者の満足度や治療実績を落とすことなく、医師の負担を減らすことができるのです。
ただ医療界には「そこまでオンライン診療に依存することはできない」という意見も根強く残っています。
それは「オンライン診療で医療の質が格段に向上したというエビデンス(証拠)がない」と考える医師もいるからです。
日本の医師不足の問題の本質は、地域偏在と診療科偏在の2つである、と紹介しました。
まず医師の地域偏在の問題ですが、もしオンライン診療が拡大すれば、“医師の居場所”が関係なくなるので解消できる可能性が高まります。
オンライン診療では、医師が患者のスマホ画面に登場すれば診療ができます。
インターネットに距離は関係ないので、もし法律が許せば技術的には北海道の患者の診療を沖縄の医師が行うこともできます。
ただ、その治療において、来院または医師の訪問が一切不要で、オンライン診療だけで全て完結できる治療内容であればの話ではありますが。
つまり医師が多い地域で、患者数が増えないことに困っているクリニックがあれば、医師が少ない地域の患者を診ればいいのです。これで医師不足の悩みと医師過剰による患者不足の悩みが同時に解決できます。
オンライン診療による診察を行う中で、必要な検査や触診等が必要な場合にのみ、直接来院してもらうか、医師が訪問すればよいのです。
しかし現行の法律では、オンライン診療をする医師は、患者の急変時に30分以内に対面診療で対応できないとならないので、現状は、北海道の患者を沖縄の医師が診ることはできません。
患者の急変時に30分以内に対面診療とあるように、基本的には、近くの者同士でなければならないのです。
また、法律的にこれが可能になった場合でも、お互いが直接会う必要が生じる治療内容であれば、時間や交通費がかかってしまう事も考慮しないとなりませんが、オンライン診療のみで治療が成立するような場合には、場所は問わなくなるのです。
もし、オンライン診療が拡充すれば、特定の診療科の医師が少ない問題の解消につながるかもしれません。
医師と医師をつなぐオンライン診療もあるからです。
例えば高齢者が「足が痛い」と訴えた場合、足の血管の病気なら循環器内科の領域になりますが、骨や関節に支障をきたしていれば整形外科医が診ることになります。
もし循環器内科医が足の痛みを訴える患者を診たところ、血管や心臓に異常がないことがわかったら、整形外科領域の病気を疑います。
このとき医師対医師のオンライン診療で循環器内科医と整形外科医をつなげば、循環器内科医は整形外科医から診断方法や治療方法などを尋ねることができます。
軽い整形外科の病気であれば、循環器内科医がそのまま治療できるかもしれません。
オンライン診療であればスマホの動画撮影機能を使えるので、インターネットの向こうにいる整形外科医は、患者の動きをリアルタイムで診ることができます。
医師対医師のオンライン診療を使えば、このように“専門医のリリーフ登板”が可能になるかもしれないのです。
そうなればひとりの専門医が、多くの医師に専門的な知識を提供することができます。
医師対医師のオンライン診療は「遠隔画像診断」や「遠隔病理診断」という形ですでに稼働していますが、全体を見てみると、まだまだ普及しているというレベルではないようです。
普及するにはさらなる法律の整備が必要になります。
オンライン診療(遠隔診療)は“医師の手間”を省くことができる医療といえるでしょう。しかし手間を省くことで医療の質を落とすわけにはいきません。
それで一部の医師や厚生労働省などは、オンライン診療を急激に拡大させることに慎重なのです。
しかしインターネットやITはとても便利なツールであり、さらに医療との相性もよいので、拡充が望まれます。
さまざまな“壁”を乗り越えて、患者が喜び医師の負担が減る医療が実現できるオンライン診療になることを期待します。
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