Telemedicine Report
記事リリース日:2019年1月7日 / 最終更新日:2019年1月21日
「医療ビジネス」という言葉にネガティブな印象を持つ人がいます。
ビジネスには“金儲け”というニュアンスがあり、人の健康と命にかかわる医療を金儲けの道具や手段にすることはよくないこと、と感じるからでしょう。
しかしビジネスには、技術や製品やサービスを向上させる推進力があります。それは医療業界も同じで、ビジネス的に順調な領域は進化しています。
例えばCT(コンピュータ断層撮影)や消化器内視鏡(いわゆる胃カメラ)やがん治療薬など、関連企業に大きな利益をもたらしてきた医療技術は目覚ましい発展を遂げています。
オンライン診療(遠隔診療)システムを開発・販売している株式会社メドレー(本社・東京都港区)がネット医療ビジネスを拡大させる取り組みを行っています。
もちろんメドレーは民間企業なので利益を増やすことも目的のひとつではありますが、しかしこの取り組みは医療の質を向上させる可能性があります。
詳しく解説します。
目次
メドレーは2018年夏に、ネット医療サービスを提供している企業に、総額30億円の出資をする「メドレードライブ」というプロジェクトをスタートさせました。
メドレードライブをみるまえに、まずは、そもそも出資とはどのような経済活動なのか解説します。
経営者が事業を始めるには、ヒト、モノ、カネの3つが必要です。
ヒトは社員や従業員のことです。
モノは土地や工場や材料などのことです。
カネは社員を雇ったり土地や工場や材料などを調達したりする資金のことです。
経営者はヒト、モノ、カネのすべてに関わりますが、カネだけに関わる人もいます。
それが出資者です。
出資者とは、企業の事業のためにお金を出す人のことです。
企業にお金を出す機関に銀行がありますが、出資者による出資は、銀行による融資とは性質が異なります。
出資者が出したお金は、企業の事業が失敗したら消えてなくなりますが、銀行が貸したお金は企業が倒産した後も債権として残ります。
出資者のほうが、銀行よりリスクが大きいといえますが、その代わりリターンも多いのです。
出資した企業が儲ければ、出資者は莫大なお金を手に入れることができます。
一方の銀行は、貸したお金の利子しか得ることができません。
メドレーが取り組むのは出資です。
したがって、メドレーが出資した企業が大成長すれば、メドレーは大きな利益を得ることができます。
しかしメドレーの最終目標がお金を増やすことでないことは明白です。
なぜならメドレーは出資先を、ネット医療関連の企業に絞っているからです。
つまりメドレーは“大成長する企業”に出資するのではなく、“ネット医療ビジネスに貢献できる企業”に出資するからです。
これはすなわち、メドレーには、ネット医療業界を発展させる意図があると考えることができます。
メドレー自身がネット医療ビジネスの会社です。
メドレーの主力商品はオンライン診療システム「クリニクス」です。
オンライン診療システムは、医師のパソコンと患者のスマホをつなぐ仕組みのことで、これを使ってテレビ電話方式で医師と患者が話したり、診察予約を入れたり、治療費の支払いをすることができます。
メドレーは2017年5月に、首相官邸にて安倍晋三首相にオンライン診療のデモンストレーションを行ったことでも知られています。
メドレーの医療ビジネスにはそのほかにも、医療や病気に関するニュースやトピックスを配信するWebサイト「メドレーニュース」や、医療人材や介護人材の就職支援などがあります。
メドレーの創業者で代表取締役社長は瀧口浩平氏といい、アメリカで市場調査や統計調査などを行う会社を立ち上げた後、2009年にメドレーを創業しました。
そしてメドレーの共同代表で、「代表取締役医師」という聞き慣れない役職に就いているのが、豊田剛一郎氏です。
豊田氏は東京大学医学部を卒業した後、脳神経外科医として活躍していました。
その後コンサルティイング会社に転職してビジネスの世界に入り、2015年にメドレーに入社しました。
メドレードライブの内容を紹介します。
総額30億円の出資先は、インターネットサービスの普及が進まない医療現場の現状を打破する企業です。
具体的には次の3項目のうちいずれかに該当する企業になります。
メドレーはお金を出すだけでなく、出資先企業と協力して次世代の標準になりうる医療技術を開発していきます。
また開発した技術はオープンにして、そのほかのネット医療サービス企業が使えるようにします。
メドレーには、「日本の医療業界のシステムには統一した規格がないうえに、病院は独自に情報ネットワークを構築しているため、医療業界全体で使えるインターネット技術を普及させることが難しい」という問題意識があります。
メドレーが出資先企業と生み出した技術やサービスをオープンにすれば、多くの企業が無料もしくは低コストで使うことができるので「業界標準」になるかもしれません。
結局のところ多くの企業やユーザーが使っているものが業界標準になるからです。
またメドレーは、出資先企業のマーケティング戦略支援やガバナンス体制づくりにも協力します。
マーケティングとは売上増や利益増を図るためのあらゆる手段のことであり、ガマナンスとは企業統治のことです。
新しくて輝いているアイデアや技術を持っているベンチャー企業のなかには、マーケティングやガバナンスが未熟なところが少なくありません。
マーケティングとガバナンスがしっかりしていないと、いくらアイデアや技術が優れていても、市場で生き残ることはできません。
メドレードライブの意義は、ネット医療に的(まと)を絞っているところと、ビジネスに徹しているところ、そして社会貢献を最終目標に据えているところです。
オンライン診療(遠隔診療)だけでなく、病気情報や医療費などのビッグデータの収集・解析や、AI(人工知能)やIoT(ネットとモノ)の活用などのネット医療は、確実に医療を進歩させるでしょう。
しかしネット医療関連の企業は中小零細企業やベンチャー企業が多く、輝く技術を持っていてもそれをビジネス化することができないことがあります。
ビジネス化できても資金繰りが悪化して倒産してしまうと、技術やアイデアや人材が散逸してしまいます。
ネット医療ビジネスに携わっている企業が体力をつけて安定した経営をすることは、日本の医療の発展に貢献します。
CTの開発費は、イギリスの伝説のロックバンド、ビートルズが生み出した莫大な利益から捻出された、という有名なエピソードがあります。
ビートルズが所属していたイギリスのレコード会社のEMI社は医療機器の開発も手掛けていて、CTもそのひとつだったのです。
このエピソードこそ、安定した経営が卓越した医療を生む原動力になることの証拠といえます。
出資の最大のリスクは出資先企業の倒産です。
企業が倒産したら、その企業に出資したお金は二度と戻ってきません。
そして中小零細企業やベンチャー企業の倒産リスクは、大企業に比べてはるかに大きいといえます。
すなわちメドレーは30億円の出資を、大きなリスクを覚悟したうえで決断したと推測できます。
メドレーはネット医療業界の発展のために、あえて険しい道を選んでいるので、将来、メドレーの想いが実を結んでくれる事を願いたいところです。
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