Telemedicine Report
記事リリース日:2019年2月25日 / 最終更新日:2019年2月25日
医療について考えたり提案したりすることは、医療の素人でもできます。
なぜなら医療の素人が病気を発症すれば、患者として医療にかかわるからです。
したがって、医療の素人である一般国民こそ、医療について考えてり提案したりすべきだ、ともいえるのです。
日本経済新聞が、少し変わった医療企画を行いました(※)。
学生や会社員などの「医療の素人」たちに、未来の医療の在り方を尋ねたのです。
公表されたアイデアのなかには、現代の医療問題を解決できそうなものや、健康増進に効果がありそうなものがあり、示唆に富みます。
しかも、いずれのアイデアも突拍子もないものではなく、「決して実現不可能なものではない」と感じさせます。
アイデアの講評は日本特殊陶業株式会社の尾堂真一・会長兼社長が行い「具体性がある」と述べています。
ユニークな提案の実現可能性を探っていきましょう。
目次
日本経済新聞のそのユニークな企画は「新しい時代の医療や健康の在り方は?」といい、2018年12月に公式サイトに詳報が掲載されました。
読者や企業などと一緒に「作りかえよう」をテーマに医療の未来図を模索しました。
そのなかで発表された、以下の3つのアイデアを紹介しながら、考察を加えてみます。
名古屋大学情報学研究科修士1年のMさん(23歳)は、コンビニ・クリニックを提案しました。
Mさんは、医療機関でしか扱えない、医師の処方せんが必要な「処方せん医薬品」を、現実の本物のコンビニで扱おう、と提案しています。
もちろん現行法ではその行為は許されていません。
処方せん医薬品は医師の処方せんを持っている人以外には販売したり渡したりできないからです(薬機法第49条第1項)。
Mさんはあくまで「将来法律が改正され、それが合法になれば」という前提で提案しています。
では仮に、本物のコンビニが処方せん医薬品を扱えるようになると、どのようなメリットがあるのでしょうか。
またコンビニ・クリニックを実現するには、法整備以外に何が必要になるでしょうか。
コンビニ・クリニックが実現すれば、患者は夜間や休日でも、効果が高い薬を24時間手に入れることができます。
現在でも処方せんを24時間受け付けている調剤薬局は存在しますが、その数は多くはありません。
しかし、コンビニで処方せんを受け付けできれば、深夜に夜食のおにぎりを買いに行くときに、同時に処方せん医薬品を受け取ることができるのです。
Mさんはコンビニ・クリニックを実現させるためには、AI(人工知能)を搭載した診察コンピュータが必要であると考えています。
AIが患者の本人確認と処方せんが本物であることを確認します。
さらにそのAIは、監視カメラで患者をモニターし、様子がおかしければ近隣の救急病院などを紹介します。
Mさんの提案のポイントは、コンビニ・クリニックには医師も薬剤師もコンビニ店員も関与しないところです。
もし薬剤師が必要な仕組みであれば、それは現行の24時間調剤薬局のコンビニ化にすぎません。
それでは効率化は図れません。
またコンビニ店員を関与させないことで「医療の素人判断」を予防しています。
AIがすべて行うことがこのアイデアの肝なのです。
コンビニ・クリニックで想定されているAIは、現行のAIをはるかに上回る性能を持っていなければなりません。
現行のAIでも本人確認や処方せんの照合は可能かもしれませんが、「薬剤師以上に間違いのない判断」を下すには、もう一段階進化したAIが必要でしょう。
さらに、安全に処方せん医薬品を受け渡すことができるのか、という課題もあります。
ただこれも、現在すでに無人コンビニの研究・開発が進んでいるので、将来的には防犯やセキュリティの問題はクリアできるかもしれません。
医療費の膨張という問題を、医療従事者不足、少子高齢化、労働者不足といった厳しい環境下で解決していくには、医療をコンビニ化してAIやITやネットで解決できるものを増やしていく必要があるでしょう。
コンビニ・クリニックは、情報学を専攻する大学院生らしい提案といえます。
一橋大学法学部3年、Uさん(21歳)は都心部での「100円朝食」を提案しています。
都心部にオフィスを持つ企業と鉄道会社が共同で、「朝食限定、朝7時までは1食100円」という食堂を経営する、というアイデアです。
朝食を食べない人の健康問題は、さまざまな立場の医療関係者が指摘しています。
Uさんはビジネスパーソンに朝食を行き渡らせることで、社員は健康が増進して集中力が高まり、企業は生産性を向上させることができる、と考えています。
さらに100円で提供する時間を朝7時までとすることで、ビジネスパーソンがラッシュアワーを避けて早めに家を出るようになります。
鉄道会社としては混雑解消につながるため、メリットが大きいアイデアです。
都心の企業も社員が健康になって生産性が向上するので、100円食堂に投資するモチベーションになります。
ビジネスパーソンに朝食を食べてもらって健康増進を目指す取り組みは、どの関係者も歓迎するはずです。
ただ、午前7時で100円朝食が終了してしまうということは、遅くとも6時40分には店内に入らないとなりません。
すると、通勤に片道1時間半かかるビジネスパーソンは自宅を午前5時ごろに出なければなりません。
朝の支度に30分がかかる人なら、午前4時30分に起きなければなりません。
現在、政府と企業は、労働者の負担を減らす働き方改革を推進しているので、ビジネスパーソンを早く稼働させるのであれば、会社を早く退勤させなければならないでしょう。
朝食効果で生産性を向上させれば、早い時間に退勤させることの生産性の低下をカバーできるかもしれません。
25歳会社員Tさんが考案したのは、心の病気の治療に使う「ライフレコーダー」です。
ライフレコーダーとは、人生をまるごと記録するシステムです。
ある人の生活に起きたことをすべて記録し、本人がそのデータを医師に渡します。
医師はその記録を閲覧し、治療に役立てます。
Tさんは、精神科医は「患者が話したがらない内容も把握したほうがよい」と考えました。
精神科医がその人のすべてを知っていれば、カウンセリングの効果が高まるだろう、と見立てています。
仮に60歳の患者に対しライフレコーダーを使った治療をする場合、医師は60年分の出来事を「読む」ことになります。
1年分の出来事を3時間で読んだとしても、180時間(7.5日)かかります。
医師が1人の患者の「治療の予習」にそれだけの時間をかけることは現実的ではありません。
しかしAIに60年分の出来事を読み込ませ、その情報のなかから心に影響を与えた出来事だけを抽出させれば、それほど時間をかけずに「治療の予習」ができるかもしれません。
医療の素人による提案なので、ほとんどのアイデアは「現行の法律」では違法になりそうです。
また、「現行のビジネス環境」では、ビジネスモデルとして成立させることも難しそうです。
しかし、日本の医療制度も完璧ではありませんし、日本で違法になる医療行為であっても、欧米などで合法的に行われているものもあります。
法律はいくらでも変えることはできますし、法律を変えることで医療の効率化が進むことも十分考えられます。
またビジネス環境は日々変化しています。
今日商売にならなくても、明日利益が出るかもしれません。
AIのコストが安くなれば医療への導入が進み、ビジネスモデルとして成立しやすくなるでしょう。
医療の素人による医療提案が画期的な内容であるのは、現行の法律の枠にも現行のビジネスの制約にも縛られないからでしょう。
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