Telemedicine Report
記事リリース日:2019年3月28日 / 最終更新日:2019年3月28日
VRはバーチャルリアリティの略称で、仮想現実と訳されています。
VRはゲームで使われる技術で、大型のゴーグルのようなヘッドマウントディスプレイを頭に被り、360度の映像を楽しみます。
頭を動かすとその方向の風景を見ることができ、まさに仮想の現実に迷い込んだような感覚を味わうことができます。
そのVRを精神科疾患の不安障害の治療に使う取り組みが注目されています。
医療用に開発されたわけではない技術を、どのように医療に応用しているのでしょうか。
不安障害やVRの基礎知識を紹介しながら、最新医療を解説します。
目次
不安障害は精神科疾患のひとつで、神経症と呼ばれることもあります。
不安や恐怖はネガティブな心境ではありますが、それ自体は悪いものではありません。
ただ不安や恐怖が過剰だと、日常生活に支障が出てくるのです。
不安や恐怖は、危機が迫っていることを察知すると生じます。
不安や恐怖を感じると、先に進むことをためらったり、危機を積極的に取り除こうとしたりします。
その結果、安全を確保できたり危機を回避できたりします。
しかし、危機的な状況が発生していないにも関わらず過剰に不安を感じてしまうと、通常の活動ができません。
また、日常生活を送るには、快適な状況でなくても安全が確保できていれば受け入れなければなりません。
不安症や恐怖症の患者は過剰に不安や恐怖を感じてしまうため何もできなくなってしまい、日常生活が困難になるのです。
不安障害にはさまざまな種類があり、不安障害のことを不安症と呼ぶこともあります。
そのほか、恐怖症、全般性不安障害、パニック障害、不安神経症などがあります。
恐怖症は、不安と特定の現象が結びついている特徴があります。
対人恐怖症は「他人と接する」という特定の現象が過剰な不安を引き起こす症状です。
恐怖症にはそのほかに、高所恐怖症、閉所恐怖症、先端恐怖症などがあります。
恐怖症の患者は、自分が苦手とするシチュエーションに置かれると、その状況がまったく深刻でなくても体に異変が生じます。
全般性不安障害は、特定の現象に限らず過剰な不安が生じる症状です。
パニック障害は突如自律神経が乱れ、パニック発作が起きます。
症状は一気にピークに達し周囲が「死ぬのではないのか」と感じるほど激しいものですが、救急車で病院に運ばれて検査をしても異常がみつからないこともあります。
不安神経症は不安が発作的に出現し、さまざまな症状を引き起こします。
不安障害の症状には、動悸、息苦しさ、発汗、震い、けいれん、めまい、吐き気、しびれ、冷感などがあります。
不安障害の治療には、薬物療法、認知行動療法、精神療法・心理療法などがあります。
薬物療法では、抗うつ薬や抗不安薬、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)といった薬を使います。
認知行動療法は、患者が医師から不安が生じるメカニズムを習ったり、不安を感じる現象を分析したりします。
患者が「不安に感じる必要がない」と認知できると、不安を感じる行動を修正できます。
そして精神療法・心理療法のひとつ暴露療法が、今回紹介するVRを使った治療法に関わってきます。
暴露とは、不安障害の患者に「わざと」不安を感じるシチュエーションを体験してもらうことです。
こちらは後程詳しく紹介します。
VRは仮想現実と訳されますが、どのような現実なのでしょうか。
例えば、ロボットが人間と一緒に生活したり、人類が宇宙人と闘ったりする世界はSFと呼ばれますが、SFは「現実ではない」ことを前提として展開されます。
またSFの世界は小説や映画やアニメで描かれます。
仮想現実も現実ではない点では同じなのですが、深海の底や宇宙空間など、現実に近い状況を生み出すこともあります。
また、ヘッドマウントディスプレイを装着することで、本物の人間があたかもVRの世界に入ったような体験ができます。
VRの世界に入ったような体験ができるのは、映像技術が格段に進歩したからです。
ヘッドマウントディスプレイの裏側(顔側)にはディスプレイ(テレビ画面のようなもの)がついていて、VRの体験者はそれを見ているだけです。
ところがディスプレイが映し出している映像は、VR体験者が歩けば風景もその分だけ進み、上を向けた上空の映像を見ることができます。
不安障害の暴露療法では、このリアルさが重要になります。
埼玉県朝霧市の有限会社魔法アプリが、不安障害の暴露療法用のVRシステム「VRエクスポージャー・システム」を開発しました。
VRエクスポージャー・システムが映し出す映像は、不安障害の患者が苦手とするシチュエーションです。
例えば、飛行機に乗ることが苦手な患者がいれば、VRエクスポージャー・システムで飛行機に乗る映像を映し出します。
ヘッドマウントディスプレイを装着した患者が治療室のなかで歩き始めると、飛行機のなかに入っていく疑似体験ができます。
そして映像がリアルなので、患者は不安や恐怖を感じます。
暴露療法は、患者に苦手な状況をあえて体験させて不安や恐怖に慣れさせていく、一種のショック療法です。
患者は不安体験を重ねることで、実際何も起きないことを身をもって学習していくのです。
VRを使うと治療コストを抑えることができます。
飛行機の搭乗体験を実際に実行する場合、患者が飛行場に行ったり飛行機を使わせてもらったりする必要があるのでコストがかかります。
VRエクスポージャー・システムであれば、一度映像をつくってしまえば患者さんは何回も体験できますし、ほかの患者さんも使えます。
有限会社魔法アプリでは、飛行機恐怖症用の映像だけでなく、雷恐怖症用の映像も開発しています。
同社では今後、バスや電車の映像も制作していくそうです。
例えば、バスや電車の手すりや吊り革を異常に嫌悪する不潔恐怖症(いわゆる潔癖症)の患者に使うことができます。
人混みが苦手な広場恐怖症の患者の暴露療法にも使えそうです。
有限会社魔法アプリではさらに、VRエクスポージャー・システムにセンサーをつけて、VR体験中の患者の体温や心拍数、発汗量、呼吸リズムを測定する予定です。
体温や心拍数などを測定すれば、患者が苦手なシチュエーションがより詳細にわかります。つまり不安や恐怖を見える化できるわけです。
VRエクスポージャー・システムを治療に使っている医療機関はまだ1カ所だけですが、VR暴露療法は海外では研究・開発が行われているので、今後日本でも拡大するかもしれません。
VRエクスポージャー・システムを開発した有限会社魔法アプリは、2015年に設立されたデジタルヘルスベンチャーというジャンルのベンチャー企業です。
社長の福井健人氏は明治大学の2年生のときに同社を起業し、当初、スマホやパソコンなどのアプリケーションを開発していました。
VRエクスポージャー・システムは、Startup Stage2018 関東学生ビジネスコンテストの最優秀賞、慶應義塾大学医学部主催の医療健康ベンチャー大賞学生部門の3位、日刊工業新聞社主催のキャンパスベンチャーグランプリ東京の奨励賞を受賞しています。
医療機器は普通、医師や医療機器メーカーなどが開発します。
つまりほとんどの医療機器は、医療のプロが医療のプロのためにつくったものです。
そのため、患者への親和性はそれほど高くはありません。
例えば「CT(コンピュータ断層撮影装置)は人の体を輪切りにして撮影する」という説明は、CTがこれだけ普及した現代であれば医療の素人でもイメージできますが、CTが登場した当初は「輪切り」の意味がわからなかった人は多かったはずです。
ところがVRエクスポージャー・システムは、ゲーム機の付属品として使われるヘッドマウントディスプレイを使っているので、医療の素人に親しみやすい医療機器といえるでしょう。
親しみやすい医療機器を使った治療は理解しやすいので、患者の協力が得られやすくなります。
また医療機器は高額になりがちですが、ゲーム機の付属品であればコストを抑えて製造することができます。
医療機器の安さは普及拡大に寄与するでしょう。
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