皮膚の病気はオンライン診療の治療対象ではない
アトピー性皮膚炎などの皮膚科の病気は、オンライン診療の治療対象になっていません。
皮膚科の医師のなかには、「アトピーはオンライン診療に向いている」と考えている人もいて、それは皮膚の病気の治療には次のような特徴があるからです。
- ・症状が固定すると経過観察になることがある
- ・同じ薬を継続して使うことが多い
- ・患者がスマホのカメラで皮膚を撮影して送信すれば医師が状態を観察できる
オンライン診療は経過観察と継続的な薬の処方を必要とする病気に向いているといえます。
なぜなら、経過観察だけならわざわざ患者に来院してもらわなくても、テレビ電話方式のオンライン診療で対応できるからです。
また、同じ薬を継続的に使うなら、これもわざわざ患者に来院してもらわなくてもよさそうです。
医師にも患者にも「皮膚の病気はオンライン診療で治療できるようにしたほうがよい」という意見がある一方で、皮膚科の医師たちで構成する日本皮膚科学会と日本臨床皮膚科医会は、まったく逆の見解を示しています。
この2つの学会は2018年11月に「皮膚科診療における遠隔医療の位置付け」という文章で、皮膚の病気の治療はオンライン診療に向いていない、との見解を示しています。
この2つの学会がオンライン診療による治療に反対する理由は、水虫の治療がオンライン診療では難しいと考えるからです。
皮膚科クリニックの患者の10%は水虫治療です。
水虫の診断には、皮膚表面や爪の内側の水虫菌(糸状菌)を顕微鏡で確認する必要があり、それはオンライン診療ではできません。
また皮膚腫瘍(いわゆる皮膚がん)や炎症性の皮膚の病気は、医師が患者の皮膚に直接触れて硬さや弾力性を調べなければなりません。
当然ですが、このような触診(医師が患者に触る診療)はオンライン診療では不可能です。
こうしたことからこの2つの学会は、オンライン診療は皮膚の病気の治療において誤診や重大な病気を見落とす危険がある、と考えているわけです(※6)。
それでも現場の皮膚科の医師のなかには「通院が面倒で治療を中断する患者さんもいるので、ぜひ皮膚科もオンライン診療の対象にしてほしい」といった意見が根強く存在します(※7)。
2つの学会の明確な声明が存在するものの、皮膚科の専門家たちが今後さらに議論を深めていくことを期待したいところです。
うつ病はオンライン診療の治療対象ではない
うつ病も、オンライン診療の治療対象から外れていますが、一部の精神科の医師は「うつ病の治療はオンライン診療に向いている」と話しています(※8)。
それは、うつ病の治療は長期化する一方で、症状が安定すれば経過観察と薬の処方だけで済むこともあるからです(※9)。
もちろん、重度のうつ病患者は自殺を図ることもあるので、オンライン診療“だけ”で治療することはできないでしょう。
しかし、うつ病の患者が「治療は継続したいけど、通院のためとはいえ外出したくない」と考えたとき、オンライン診療という選択肢があるかないかは大きな違いとなるでしょう。
つまりオンライン診療なら、「外に出ないでいいのなら治療を継続したい」と考えるうつ病患者を医療機関につなぎ止めることができるかもしれないのです。
そして野村総合研究所によると、実際にオンライン診療を実施している精神科医は、うつ病の治療にオンライン診療を使っています。
同研究所が医師たちに「オンライン診療を使っている病名」を尋ねたところ、うつ病や適応障害などを含む精神疾患を挙げた医師は17.3%に及びました(※10)。
これは決して少ない人数ではありません。
これらの医師たちが公的医療保険を使っているかどうかは不明ですが、少なからぬ精神科医が、うつ病を含む精神疾患の治療におけるオンライン診療の有用性を実感しているのは事実のようです。