Telemedicine Report
記事リリース日:2019年5月22日 / 最終更新日:2019年5月22日
患者がスマートフォンで医師の診察を受けることができるオンライン診療は、まさに「未来の医療が実現した」といえるでしょう。
しかしオンライン診療は、すべての患者が使えるわけではありません。
ある病気の患者は、オンライン診療のサービスを受けられないのです。
厚生労働省が「オンライン診療はこの病気の治療にしか使ってはならない」と決めているからです。
そのため、「オンライン診療は使いにくい」という声が、医師や患者から漏れ始めています。
オンライン診療はなぜ、すべての病気の治療に使えるわけではないのでしょうか。
目次
オンライン診療(遠隔診療)が2018年4月から公的医療保険の対象となり、未来の医療が身近な医療になりました。
しかし、まったく新しい医療のため「よくわからない」と感じている人も多く存在します。
そこで、シリーズ「基礎からわかるオンライン診療」では、医療に詳しくない方でも理解できるように、オンライン診療に関する基本的な情報をなるべく専門用語を使わず、平易な言葉で解説していきます。
公的医療保険制度には、「この治療方法はこの病気の治療にしか使えない」というルールがあります。
それは、ある治療法は特定の病気を治すために開発されたものだからです。
もし仮に、その治療法で別の病気が治ったとしても、それは単なる偶然かもしれません。
単なる偶然の治療法を公的医療保険の対象とするわけにはいかないので、「この治療方法はこの病気の治療にしか使えない」というルールは厳格に運用されています。
それでは、オンライン診療は「どの病気」にしか使えないのでしょうか。
オンライン診療が使える病気は、次の10の分類に含まれる病気だけです(※1)。
この10分類は「専門用語」なので、具体的な病名を紹介します。
以下のとおりです。
これらの病気の患者は、オンライン診療による治療を受けることができます。
このように並べると「多くの病気が含まれている」と感じるかもしれませんが、実は意外な病気がこのなかに含まれていないのです。
「素人考え」ではオンライン診療に向いていそうなのに、実際はオンライン診療の対象から外れている病気があります。
そして「素人考え」が医師の考えと一致することは珍しくありません。
現場の医師も「この病気こそオンライン診療の治療対象にしたほうがいいのに」と考えていることが多いのです。
それを紹介します。
アトピー性皮膚炎などの皮膚科の病気は、オンライン診療の治療対象になっていません。
皮膚科の医師のなかには、「アトピーはオンライン診療に向いている」と考えている人もいて、それは皮膚の病気の治療には次のような特徴があるからです。
オンライン診療は経過観察と継続的な薬の処方を必要とする病気に向いているといえます。
なぜなら、経過観察だけならわざわざ患者に来院してもらわなくても、テレビ電話方式のオンライン診療で対応できるからです。
また、同じ薬を継続的に使うなら、これもわざわざ患者に来院してもらわなくてもよさそうです。
医師にも患者にも「皮膚の病気はオンライン診療で治療できるようにしたほうがよい」という意見がある一方で、皮膚科の医師たちで構成する日本皮膚科学会と日本臨床皮膚科医会は、まったく逆の見解を示しています。
この2つの学会は2018年11月に「皮膚科診療における遠隔医療の位置付け」という文章で、皮膚の病気の治療はオンライン診療に向いていない、との見解を示しています。
この2つの学会がオンライン診療による治療に反対する理由は、水虫の治療がオンライン診療では難しいと考えるからです。
皮膚科クリニックの患者の10%は水虫治療です。
水虫の診断には、皮膚表面や爪の内側の水虫菌(糸状菌)を顕微鏡で確認する必要があり、それはオンライン診療ではできません。
また皮膚腫瘍(いわゆる皮膚がん)や炎症性の皮膚の病気は、医師が患者の皮膚に直接触れて硬さや弾力性を調べなければなりません。
当然ですが、このような触診(医師が患者に触る診療)はオンライン診療では不可能です。
こうしたことからこの2つの学会は、オンライン診療は皮膚の病気の治療において誤診や重大な病気を見落とす危険がある、と考えているわけです(※6)。
それでも現場の皮膚科の医師のなかには「通院が面倒で治療を中断する患者さんもいるので、ぜひ皮膚科もオンライン診療の対象にしてほしい」といった意見が根強く存在します(※7)。
2つの学会の明確な声明が存在するものの、皮膚科の専門家たちが今後さらに議論を深めていくことを期待したいところです。
うつ病も、オンライン診療の治療対象から外れていますが、一部の精神科の医師は「うつ病の治療はオンライン診療に向いている」と話しています(※8)。
それは、うつ病の治療は長期化する一方で、症状が安定すれば経過観察と薬の処方だけで済むこともあるからです(※9)。
もちろん、重度のうつ病患者は自殺を図ることもあるので、オンライン診療“だけ”で治療することはできないでしょう。
しかし、うつ病の患者が「治療は継続したいけど、通院のためとはいえ外出したくない」と考えたとき、オンライン診療という選択肢があるかないかは大きな違いとなるでしょう。
つまりオンライン診療なら、「外に出ないでいいのなら治療を継続したい」と考えるうつ病患者を医療機関につなぎ止めることができるかもしれないのです。
そして野村総合研究所によると、実際にオンライン診療を実施している精神科医は、うつ病の治療にオンライン診療を使っています。
同研究所が医師たちに「オンライン診療を使っている病名」を尋ねたところ、うつ病や適応障害などを含む精神疾患を挙げた医師は17.3%に及びました(※10)。
これは決して少ない人数ではありません。
これらの医師たちが公的医療保険を使っているかどうかは不明ですが、少なからぬ精神科医が、うつ病を含む精神疾患の治療におけるオンライン診療の有用性を実感しているのは事実のようです。
患者にとっては、わざわざ医療機関に行かなくてよいオンライン診療はとてもありがたい医療です。
しかし医療のプロである医師たちは、少しでもリスクがある医療は避けたいと考えます。
特に、安易にオンライン診療を使うことを警戒する医師は多いようです。
患者と医師の間にこのようなギャップが生じるのは当然のことであり、そしてギャップがあるからこそ安全な医療が行われている、ともいえます。
しかしオンライン診療はITとインターネットを使った医療であり、そして医師たちよりITとインターネットに詳しい患者はたくさんいます。
オンライン診療で治療できる病気を増やしてほしいと考えている患者や一般の人や医師は、ITとインターネットの力を信じている人なのかもしれません。
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