それは「居住者の見守りソリューション リモートモニタリングサービス」(以下、見守りリモートサービス)といい、介護施設の居室で高齢者が転倒した場合などに、介護スタッフに迅速かく的確に伝える仕組みです。
介護職員の負担を減らしながら高齢者の転倒を素早く検知
富士通の見守りリモートサービスは、介護施設内の高齢者が、自分の部屋のなかで転倒し、起き上がれない状態を想定しています。
介護が必要な高齢者でも、足や腰の間接や筋肉が動けば、立ち上がって歩きたくなるものです。しかし一度転倒してしまうと、自力で起き上がれないことがあります。
個室でそのような事態が発生すれば、転倒した高齢者は、介護職員の次の巡回まで倒れたままになってしまいます。これは命の危険につながってしまいます。
見守りリモートサービスで使われているのは、特殊な音響センサーです。最も単純な音響センサーは、音が鳴らないはずの場所に設置して、音が鳴ったらアラームで監視員に知らせるものです。
見守りリモートサービスで使われている音響センサーは、高齢者が転倒したときの異常な音だけでなく、例えば一定時間まったく音がしなくなったときも介護職員に知らせます。さらに室内の温度や湿度が異常数値を示したときも知らせます。
介護職員は専用のアプリをダウンロードしたスマホを携行し、見守りリモートサービスの通知を受けたら対象の高齢者の個室に駆けつけるわけです。
リモートケアがとても必要な介護施設の特殊事情
介護業界の人手不足は深刻化していて社会問題になっています。介護の人手不足の最も大きな要因は高齢者の増加と労働人口の減少ですが、別の要因もあります。それは、介護の仕事に就きたい人が少ないことです。
介護の仕事が不人気なのは、重労働の割に給料が高くないこともありますが、「仕事が大変」という事情もあります。
かつての介護施設では、複数の高齢者を大広間に入れていました。例えば1室に6人の高齢者がいれば、介護職員は一気に6人分の介護をすることができます。6人分の見守りも1回で済みます。
ところが高齢者のプライバシーと人権を守るために、介護施設の個室化が進みました。これは「とてもよいこと」です。介護が必要な高齢者であっても、羞恥心はあります。大部屋の多くの他人がいるなかで、カーテンで仕切られているとはいえ、オムツ交換をされるのは嫌なものです。屈辱に感じ、生きる気力をなくす高齢者もいるでしょう。
介護施設の個室化の流れは当然なのですが、その代わり、介護職員の仕事が増え、なおかつ濃密になりました。
夜間の見守りなら、介護職員は個室のドアをノックしてから入室し、寝ている様子をみて無事を確認し、部屋を出て次の部屋に行かなければなりません。
6人部屋であれば6人分の見守りは1回で済みましたが、個室になると6回行わなければなりません。
介護職員を増やせば対応できますが、介護保険制度から給付される介護報酬は、公的医療保険制度から給付される診療報酬よりはるかに低額なので、介護施設の運営者は人件費が増える増員を行えません。
それで介護職員の労働が濃密化して離職者が増え、残った介護職員の負担がさらに増え、さらに離職者が増えるという悪循環を起こしているのです。
見守りリモートサービスを使えば、介護職員による無駄な巡回を減らすことができるので、介護職員は床ずれ防止のための寝返り補助(体位交換)や定期的なオムツ交換や緊急対応に専念できます。
すなわち、リモートケアを導入することで、1)介護職員の負担軽減と2)高齢者へのケアの充実と3)介護事業者の人件費削減と4)人材確保の4つのメリットを享受できるかもしれないのです。
見守りリモートサービスは介護施設だけでなく、クリニックや訪問看護ステーションと患者宅をつなぐこともできます。また、セキュリティ会社と高齢者宅をつなぐこともできます。
リモートケアのひとつの手段として、活躍の場はさらに広がりそうです。