Telemedicine Report
記事リリース日:2019年6月26日 / 最終更新日:2019年6月26日
オンライン診療とは、患者さんと医師をインターネットの電話会議システムでつなげて行う診療のことです。医師はパソコンを使い、患者さんはスマートフォンを使います。
オンライン診療はITをふんだんに使ったまったく新しい医療で、2018年4月に厚生労働省が正式に公的医療保険の対象として認可しました。
したがってオンライン診療は「できたてほやほや」の医療なのですが、すでにオンライン診療の次の構想が誕生しています。
リモートケアです。
リモートとは「遠隔」という意味です。ケアとは、医療や介護やその他のお世話のことです。しかしリモートケアは、単なる遠隔操作による医療や介護やその他のお世話、ではありません。
オンライン診療ですら十分革新的なのに、それをさらに進化したリモートケアとはどのようなものなのでしょうか。
目次
リモートケアの提唱者の1人に、多喜義彦氏という方がいます。多喜氏の考えるリモートケアとは、およそ次のような内容を含んでいます。
オンラインケアの詳細を解説する前に、多喜氏について紹介します。 多喜義彦氏は、システム・インテグレーション株式会社(本社・東京都千代田区)の社長です。同社は企業のシステムなどをつくっている会社で、現在40数社の技術顧問をしているそうです。
多喜氏にはビジネスパーソンの顔の他に「公の顔」を持っています。例えば、東北大学や金沢大学や九州工業大学などの客員教授を歴任しています。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の知財アドバイザーを務めたこともあります。
また、日本経済新聞系列で、医療やITやビジネスなどに関する雑誌を多数出版している日経BPにおいて、リアル開発会議プロデューサーという肩書を持っています。
多喜氏は「開発の鉄人」と呼ばれています。
2019年4月26日付けの日経XTECの記事「遠隔診療、オンライン診療の次は『リモートケア』」で多喜氏は、2040年に国民の4分の1が75歳以上になる日本で、リモートケアは「絶対に必要なものであると確証している」と述べています(*)。
*:https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/column/18/00028/00024/?P=1
多喜氏は、2018年4月に本格稼働したばかりのオンライン診療は、高齢者が増えたことで医療のコストが膨張したため、医療を効率化するために生まれた、と考えています。
実際、厚生労働省もオンライン診療の導入において、医療の効率化を検討しています(*)。
オンライン診療の進化形であるリモートケアは、医療だけでなく介護やその他の社会的なケアを効率化させる、というわけです。
では、多喜氏はなぜ、オンライン診療が始まったばかりの「今」、次のステップであるリモートケアを提唱しているのでしょうか。つまり、日本の超高齢社会問題は、10年以上前から議論されていたのに、なぜオンライン診療の本格稼働直後のこのタイミングだったのでしょうか。
多喜氏は、リモートケアを社会に普及するには、情報セキュリティを強化する必要がある、と考えています。オンライン診療ですら、とても重要な医療情報がインターネット上を飛び交っています。リモートケアになれば、医療情報すら重要情報群のひとつにすぎなくなります。
患者さんや高齢者の「人生そのもの」がインターネットやパソコンやスマホでやり取りすることになるのです。
したがってリモートケアでは、患者さんと医師が完全に特定されなければなりません。そのためには、指紋や顔などで本人を特定する生体認証システムが必要になります。
こうしたより高度な技術が「今」になってようやく成熟してきたので、リモートケアを考えられるようになったのです。
多喜氏以外にもリモートケアを考えている人たちがいます。例えば富士通は、介護施設で使うリモートケアを開発しました。
それは「居住者の見守りソリューション リモートモニタリングサービス」(以下、見守りリモートサービス)といい、介護施設の居室で高齢者が転倒した場合などに、介護スタッフに迅速かく的確に伝える仕組みです。
富士通の見守りリモートサービスは、介護施設内の高齢者が、自分の部屋のなかで転倒し、起き上がれない状態を想定しています。
介護が必要な高齢者でも、足や腰の間接や筋肉が動けば、立ち上がって歩きたくなるものです。しかし一度転倒してしまうと、自力で起き上がれないことがあります。
個室でそのような事態が発生すれば、転倒した高齢者は、介護職員の次の巡回まで倒れたままになってしまいます。これは命の危険につながってしまいます。
見守りリモートサービスで使われているのは、特殊な音響センサーです。最も単純な音響センサーは、音が鳴らないはずの場所に設置して、音が鳴ったらアラームで監視員に知らせるものです。
見守りリモートサービスで使われている音響センサーは、高齢者が転倒したときの異常な音だけでなく、例えば一定時間まったく音がしなくなったときも介護職員に知らせます。さらに室内の温度や湿度が異常数値を示したときも知らせます。
介護職員は専用のアプリをダウンロードしたスマホを携行し、見守りリモートサービスの通知を受けたら対象の高齢者の個室に駆けつけるわけです。
介護業界の人手不足は深刻化していて社会問題になっています。介護の人手不足の最も大きな要因は高齢者の増加と労働人口の減少ですが、別の要因もあります。それは、介護の仕事に就きたい人が少ないことです。
介護の仕事が不人気なのは、重労働の割に給料が高くないこともありますが、「仕事が大変」という事情もあります。
かつての介護施設では、複数の高齢者を大広間に入れていました。例えば1室に6人の高齢者がいれば、介護職員は一気に6人分の介護をすることができます。6人分の見守りも1回で済みます。
ところが高齢者のプライバシーと人権を守るために、介護施設の個室化が進みました。これは「とてもよいこと」です。介護が必要な高齢者であっても、羞恥心はあります。大部屋の多くの他人がいるなかで、カーテンで仕切られているとはいえ、オムツ交換をされるのは嫌なものです。屈辱に感じ、生きる気力をなくす高齢者もいるでしょう。
介護施設の個室化の流れは当然なのですが、その代わり、介護職員の仕事が増え、なおかつ濃密になりました。 夜間の見守りなら、介護職員は個室のドアをノックしてから入室し、寝ている様子をみて無事を確認し、部屋を出て次の部屋に行かなければなりません。 6人部屋であれば6人分の見守りは1回で済みましたが、個室になると6回行わなければなりません。
介護職員を増やせば対応できますが、介護保険制度から給付される介護報酬は、公的医療保険制度から給付される診療報酬よりはるかに低額なので、介護施設の運営者は人件費が増える増員を行えません。 それで介護職員の労働が濃密化して離職者が増え、残った介護職員の負担がさらに増え、さらに離職者が増えるという悪循環を起こしているのです。
見守りリモートサービスを使えば、介護職員による無駄な巡回を減らすことができるので、介護職員は床ずれ防止のための寝返り補助(体位交換)や定期的なオムツ交換や緊急対応に専念できます。 すなわち、リモートケアを導入することで、1)介護職員の負担軽減と2)高齢者へのケアの充実と3)介護事業者の人件費削減と4)人材確保の4つのメリットを享受できるかもしれないのです。
見守りリモートサービスは介護施設だけでなく、クリニックや訪問看護ステーションと患者宅をつなぐこともできます。また、セキュリティ会社と高齢者宅をつなぐこともできます。 リモートケアのひとつの手段として、活躍の場はさらに広がりそうです。
「オンライン診療が本格稼働したばかりなのに、もう次のリモートケアを考えなければならないのか」と思うかもしれません。しかし、リモートケアは、オンライン診療の進化版と考えることができるので、まったく新しいものを一から導入するわけではありません。
そしてリモートケアは、患者さんも高齢者もその家族も医師も看護師も介護職員も、メリットを受けることができます。4分の1の75歳以上の人たちを、4分の3の75歳未満の人たちで支えるには、ITやインターネットなどの最新技術が欠かせません。
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