Telemedicine Report
記事リリース日:2017年11月10日 / 最終更新日:2019年3月4日
自宅や職場に居ながらスマホやパソコンのテレビ電話で医師の診療を受ける――。
そんな未来の医療がとうとう現実のものとなりました。
インターネットを使った遠隔医療の仕組みのひとつであるオンライン診療(遠隔診療)が2018年4月に公的医療保険の対象になったのです。
ただ、それから1年近く経った2019年3月現在でも、オンライン診療という言葉を耳にした事があっても、実際にオンライン診療を利用したことがないという人は多いのではないでしょうか。
それは、オンライン診療には多くの利点があるにも関わらず、診療のシステムが新しすぎたり、強い規制などのルールがあったりして欠点を指摘する声が多く、なかなか普及・拡大が進んでいない為、多くの患者が利用するには至らないと推測されます。
革新的な遠隔医療として、まだまだ発展の余地があるオンライン診療の2019年3月時点でのメリットとデメリットを紹介します。
目次
まずはオンライン診療(遠隔診療)のメリットをみていきましょう。
オンライン診療の強みを分かりやすく例えるなら、インターネットが広く普及し、アプリなどで距離の離れた者同士の映像付きによる対面通話(ビデオチャット)が、より身近なものになりました。
オンライン診療は、そういったシステムを医療にも応用した、現代ならではの最新技術が盛り込まれていることです。
最新技術を取り入れることで、通院不要の場合においては病院やクリニックへ直接通う必要がなく、患者の好きな場所や時間で受診することが可能になり、会社勤めしている人や通院が大変だった人にとって医療行為を受けるハードルが、ぐんと下がりました。
オンライン診療に使われている最新技術とはInformation Communication Technology(情報通信技術、インフォメーション・アンド・コミュニケーション・テクノロジー)の事で、頭文字を取ってICTと呼ばれています。
IT(情報技術、インフォメーション・テクノロジー)はよく聞く単語だと思います。インターネットやパソコンやスマホはITです。
それにC(コミュニケーション)を足したものがICTなのです。
オンライン診療は、患者の情報や病気情報を医師が入手できれば完了するわけではありません。
オンライン診療も医療である以上、医師と患者がしっかりコミュニケーションできなければなりません。だからCを含むICTが必要だったのです。
東京慈恵会医科大の先端医療情報技術研究講座の高尾洋之准教授は、ICTを用いたオンライン診療には、次のようなメリットがあると指摘しています。
高尾准教授たちは、専門医がたくさんいる都会の診療所と、東日本大震災の被災地である宮城県石巻市の診療所との間でオンライン診療を実施しています。
またシンガポールでも、カメラ付きロボットや通信機器を使って患者の運動の様子をモニタリングする仕組みをつくりました。
オンライン診療に注目しているのは大学だけではありません。
地域に根付いた臨床医たちもオンライン診療を医療現場に活かそうとしています。
例えば、在宅医療のクリニックを東京と石巻市で計5カ所運営している医療法人社団鉄祐会の武藤真祐理事長は、「医療機器と通信機器が向上したことにより、オンライン診療でも一般的な外来診療と同等の医療を提供できている」と胸を張ります。
患者と医師が直接会う対面診療の場合、1時間待って3分診療ということも珍しくありませんが、オンライン診療であれば医師と患者の都合のよい時間に診療が行えるので、より深く患者を診ることができるからです。
厚生労働省は当初、オンライン診療の導入に積極的ではなく、へき地や離島に限って使えるようにしたいと考えていました。
医師がたくさんいるところではこれまでの直接の対面診療を原則として、医療過疎地にだけ例外的にオンライン診療を普及させようとしていたのです。
例えば先ほど紹介した高尾准教授も、過疎に悩む徳島県を例に出し、「県南部には常勤の脳神経外科医いないため、オンライン診療で都会の脳神経外科医が県民を診断できるようになるとよい」と提案しています。
このように医師不足をオンライン診療で補う考え方は理解しやすいのですが、オンライン診療は医師がいる場所でも役に立ちます。
例えば開業医は自分の専門領域については詳しいのですが、他の領域になると診断や治療に困ることがあるそうです。
したがって開業医がオンライン診療と同じシステムを使って専門医に相談することができれば、患者の利益も大きくなるでしょう。
これをオンライン診療とは区別して、遠隔医療、またはオンライン医療などと呼び分けることがあります。
また、中規模以下の病院だと、夜から朝方にかけて病院に泊まり込む当直医は1人になることがあります。
救急車で運ばれてくる患者の病気が自分の専門外であっても、当直医はその患者を診なければなりません。
オンライン医療が拡大すれば、その当直医が別の病院の当直医に相談することも簡単にできるようになるかもしれません。
東京女子医科大学は、ビジネスパーソン向けのオンライン診療に取り組んでいます。
ビジネスパーソンが仕事の休憩時間にスマホアプリを立ち上げて、画面に現れた担当医から血圧数値に関する所見や、むくみの状態についてのアドバイスを受けます。
受診の支払いはクレジットカードで済ませ、薬は後日宅配便で届きます。
このシステムの最大のメリットは、通院時間も待ち時間も要らないことです。
これなら生活習慣病を抱えていながら、日々の忙しさから受診できない働き盛りの人も「医師にかかろう」という気持ちになるでしょう。
ある病院では、退院した患者にタブレット端末を持たせて、いつでも医師に相談できるようにしました。
病院の高度な治療は必要ないものの、自宅での一人暮らしに不安が残る高齢者に喜ばれるサービスでしょう。
IT機器に不慣れなお年寄りがきちんと操作できないときは、病院側がタブレットの使い方を指導します。
都心部の若い人達にも、オンライン診療は歓迎されるでしょう。
人に知られたくない病気や、どうしても恥ずかしいと感じてしまう症状に悩んでいる人でも、オンライン診療を使えば通院しなくていいので、受診する気持ちがわいてくるかもしれません。
例えばED(勃起不全)やAGA(男性型脱毛症)は治療しなくても生死に関わるリスクが低い病気なので、多くの患者は苦しくても放置して我慢してしまいます。
また、便秘や痔なども、病院にかかりたくないと思わせてしまう病気です。
しかし、EDやAGA、便秘や痔なども早期治療によって症状の改善が期待できます。
したがってこれらの病気こそ、早く医者に診てもらったほうがいいのです。
オンライン診療なら医療への抵抗感を少なくすることができるので、早期受診・早期治療を実現できるかもしれません。
ところがオンライン診療には、ある欠点があることから、メリットを十分に活かせない不安があるのです。
次にオンライン診療のデメリットをみていきましょう。
※遠隔診療とED・AGA治療との相性については、こちらの記事に詳しく書いてあります。
患者にとっても医師にとっても便利で革新的にみえるオンライン診療(遠隔診療)ですが、デメリットや限界がないわけではありません。
利便性も高く、将来性が期待されている医療にみえるオンライン診療ですが、実は不信感を持っている医師も少なくありません。
医療系メディアのメドピアが2016年に、医師を対象にしたオンライン診療に関するアンケートを行いました。
その結果、多くの医師が「オンライン診療は今後拡大するだろうが、自分は参画しようとは思わない」と考えていることがわかったのです。
オンライン診療は「今後拡大するだろう」と答えた医師は87.9%に達しました。しかしその内訳をみると、「自分は参画したいとは思わない」と答えた医師が50.9%と、「参画したい」の37.0%を大きく上回ったのです。
オンライン診療に参画したくない理由のなかには、「患者を直接診ないと正しい診断や治療をする自信がない」「患者との信頼が築けるかどうか心配」といったものがありました。
これは、オンライン診療の推進派の医師たちと真逆の考え方です。
推進派の医師たちは、ICTの進歩によってオンライン診療は直接の対面診療に近い効果が出ていると考えますが、慎重派の医師は「オンライン診療より対面診療のほうが適切な医療を行える」と感じているのです。
さらに国内医療界の権威にも、オンライン診療を懐疑的にみている人がいます。
日本医師会の副会長である中川俊男医師(新さっぽろ脳神経外科病院理事長)は、オンライン診療は対面診療の補完にすぎないとして、オンライン診療の拡大に慎重姿勢を示しており、中川副会長はオンライン診療を本格的に日本の医療に定着させるには、次の2点は欠かせないと指摘しています。
この見解を示したのは2017年3月のことです。
中川副会長も、多くの国民がスマホやタブレットの操作に慣れている現代、オンライン診療などのICT診療を進化させていくことは否定しない、という立場です。
また、厚生労働省が押し進めている地域包括ケアシステムでも、ICT診療は大きな利点があると認めています。
それでも中川副会長は慎重姿勢を崩しません。
ICTを活用するオンライン診療には、ICT企業やIT企業の参入が欠かせませんが、中川副会長は医療が営利企業化することを懸念しています。
厚生労働省の官僚が2017年に開かれた医療系出版社主催の座談会で、次のように述べています。
厚生労働省は微妙な立場に立たされています。
これだけ強いオンライン診療の波を押し戻すことはできないと考えていますが、一方で強く反対する医師も少なくないため、オンライン診療を大々的に推進することをためらっているようなのです。
この官僚は対談で、「対面診療を一切行わないことを前提とした遠隔診療(オンライン診療)を容認するものではないが、遠隔診療を否定することもない」と苦しい胸の内を明かしています。
こうした懸念があるため、厚生労働省は2019年3月現在、オンライン診療を「完全解禁」にはしていません。
現行制度では、初診からオンライン診療を行うことは禁じられていて、対面診療からオンライン診療に移行できるのは、保険診療の場合は初診から半年後となっています。
これではオンライン診療の「気軽に受診できる」メリットを活かせません。
※厚生労働省が考えるオンライン診療(遠隔診療)について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
現代のテクノロジーをいかんなく発揮した遠隔医療であるオンライン診療は、その便利さと有効性から、今後拡大していくでしょう。
しかし、2019年3月の段階ではまだ、問題点や課題を完全に解決できているわけではありません。
したがってオンライン診療を推進しようとしている医師や関連企業などは、最新ICTを投入するなどして治療効果を証明していくことになります。
また、厚生労働省にも、オンライン診療を使いやすくしようとする動きがみられます。
患者やこれから医療を受ける人たちは、デメリットをきちんと把握したうえでオンライン診療を受ける必要があるでしょう。
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